ネック:マホガニー指 板:エボニー塗 装:表板 セラック :横裏板 セラック糸 巻:ゴトー弦 高:1弦 3.0mm :6弦 4.0mm〔製作家情報〕 栗山大輔 Daisuke Kuriyama 1981年生まれ。東京造形大学在学中に独学でギター製作を始めます。卒業後の2003年大手楽器店に入社し修理部門として10年以上従事し、そこで多くの国内外の名器を実地に研究する機会を得たことが、現在の彼の類まれなバランス感覚に支えられた音色への感性を育んだと言えるでしょう。在籍中に製作家の尾野薫を紹介され、2010年より尾野氏の工房にて直接指導を受けるようになります。その後独立し年間6~8本程のペースで極めて精緻な造作による上質なギターを製作。トーレス、ドミンゴ・エステソ、マルセロ・バルベロ1世モデル等のスペインの伝統工法に立脚した彼の楽器はどれも古き良きスパニッシュギターの味わいと響きが素直に体現されており、現在多くのジャンルのユーザーに愛されるブランドとなっています。2020年にはフランスの出版社Camino Verde刊 Orfeo Magazine No.15で彼のインタビューと楽器が紹介されました。オルフェオマガジン「日本の製作家」特集掲載号 オンラインショップ商品ページはこちらオルフェオ取材同行記 栗山大輔、清水優一、禰寝碧海編はこちら〔楽器情報〕 栗山大輔製作 100号 ロベール・ブーシェモデル 2025年製 No.124 新作です。M.ラミレスやバルベロ1世など、戦前のスペインの巨匠たちへのオマージュでの充実した仕事で注目を集める栗山氏は、実はフランスのブランドにおいても同様に良質なオマージュを近年いくつも作り上げています。本作はギタリストの故稲垣稔が所有していた1960年製ブーシェに準拠して製作。栗山氏はここで設計原理から導き出せる音響に忠実に着地させることでオリジナルのエッセンスを十全に、氏ならではの非常な解像度の高さでもって引き出しており、ブーシェという楽器が時代とともに纏ってしまった伝説やイメージをすべて取り払った形での、清新な実在としての音響を提示しています。ブーシェにおける、むしろ単純明快とさえいえる設計がなぜあの異様なまでの(クラシックギターにおいて最もデモーニッシュなともいえる)音楽的表情の深さにつながってゆくのかはいまだ謎を多く含んでいるものの、ブーシェ特有の響きを形容する際にもっともよく引用される「オルガンのような」音像、重厚な響きでありながら鋭敏な音の身振り、旋律における(フランス的、またはフランス語的と言ってもよい)独特のうねりなどの特徴が十全に備わっており、弾くだけで奏者に音楽を喚起するようなところさえあるギターとなっています。表面板力木配置はサウンドホール上側(ネック側)に1本のハーモニックバーとネック脚に近接する位置に繊細な造りの補強バーが1本、下側(ブリッジ側)に1本のハーモニックバーを設置。このサウンドホール下側のバーは高音側と低音側とにそれぞれ長さ5cm、高さ3mmほどの開口部が設けられています。ボディ下部は左右対称5本の扇状力木と、ブリッジ位置(正確にはサドルの位置)にほぼ横幅いっぱいにわたって設置されているいわゆるトランスヴァースバー。5本の扇状力木はこのトランスヴァースバーを貫通してボトムぎりぎりのところにそれらの下端が位置しています。また高音側と低音側それぞれの一番外側に配置された力木の上端はサウンドホール下側ハーモニックバーの開口部をくぐり抜け切るぎりぎりのところに位置しています。ブーシェの特徴的な構造であるこのトランスヴァースバーは低音側から高音側に向かって緩やかに高くなるように造られ(実際には一番高音側から2番目の力木の位置が最も高くなっています)、その両端は横板に接する手前で表面板までカーブを描いて降りてゆくように造形されています。5本の力木との交差部分は隙間なく組み込まれており、強固なトランスヴァースバーがはるかに繊細な造りの力木を押さえ込むようにして設置されているのが特徴です。さらにこれもブーシェ的構造に特有のものですが、サウンドホール下ハーモニックバー接する形で1.5×3.0cm、2mm厚の2枚の小さな補強プレ―トが5本のうち中央3本の力木の間に設置されています。レゾナンスはG#の少し上に設定されています。上記の構造により、弦の弾性エネルギー(まさしくサドルの位置にトランスヴァースバーが設置していることに注目しておく必要があります)が異様な密度をもった音になり、さらにその音像に類まれな重力を付加し持続させる、あのブーシェ的な響きが生まれます。まるでタッチにまとわりついてくるような重厚でしかし明晰な発音機能、そして単なる倍音の豊かさによって生み出されるものとは異なる、響箱の響きそのものとしての独特の深い奥行きの創出などは、まさしくこのモデルならではと言えるでしょう。もちろん音響だけではなく造作精度と仕上がりのセンスの点でもオリジナルを彷彿とさせる栗山氏の仕事は素晴らしく、一見してわかるボディラインとヘッドシェイプ、やや黄色味のある表面板と緑色を基調にした渋い意匠のロゼッタとのコントラスト、その全体が繊細なセラック塗装で仕上げられ、威容と優美さが共存した外観が魅力的。ネックはほぼスクエア(四角形)と言えるほどのDシェイプで、厚みは普通ですが独特のグリップ感。糸巻きはGotoh製のカスタムモデル(ゴールドのプレーンプレート)を装着。
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ネック:マホガニー
指 板:エボニー
塗 装:表板 セラック
:横裏板 セラック
糸 巻:ゴトー
弦 高:1弦 3.0mm
:6弦 4.0mm
〔製作家情報〕
栗山大輔 Daisuke Kuriyama 1981年生まれ。東京造形大学在学中に独学でギター製作を始めます。卒業後の2003年大手楽器店に入社し修理部門として10年以上従事し、そこで多くの国内外の名器を実地に研究する機会を得たことが、現在の彼の類まれなバランス感覚に支えられた音色への感性を育んだと言えるでしょう。在籍中に製作家の尾野薫を紹介され、2010年より尾野氏の工房にて直接指導を受けるようになります。その後独立し年間6~8本程のペースで極めて精緻な造作による上質なギターを製作。トーレス、ドミンゴ・エステソ、マルセロ・バルベロ1世モデル等のスペインの伝統工法に立脚した彼の楽器はどれも古き良きスパニッシュギターの味わいと響きが素直に体現されており、現在多くのジャンルのユーザーに愛されるブランドとなっています。2020年にはフランスの出版社Camino Verde刊 Orfeo Magazine No.15で彼のインタビューと楽器が紹介されました。
オルフェオマガジン「日本の製作家」特集掲載号 オンラインショップ商品ページはこちら
オルフェオ取材同行記 栗山大輔、清水優一、禰寝碧海編はこちら
〔楽器情報〕
栗山大輔製作 100号 ロベール・ブーシェモデル 2025年製 No.124 新作です。M.ラミレスやバルベロ1世など、戦前のスペインの巨匠たちへのオマージュでの充実した仕事で注目を集める栗山氏は、実はフランスのブランドにおいても同様に良質なオマージュを近年いくつも作り上げています。本作はギタリストの故稲垣稔が所有していた1960年製ブーシェに準拠して製作。栗山氏はここで設計原理から導き出せる音響に忠実に着地させることでオリジナルのエッセンスを十全に、氏ならではの非常な解像度の高さでもって引き出しており、ブーシェという楽器が時代とともに纏ってしまった伝説やイメージをすべて取り払った形での、清新な実在としての音響を提示しています。
ブーシェにおける、むしろ単純明快とさえいえる設計がなぜあの異様なまでの(クラシックギターにおいて最もデモーニッシュなともいえる)音楽的表情の深さにつながってゆくのかはいまだ謎を多く含んでいるものの、ブーシェ特有の響きを形容する際にもっともよく引用される「オルガンのような」音像、重厚な響きでありながら鋭敏な音の身振り、旋律における(フランス的、またはフランス語的と言ってもよい)独特のうねりなどの特徴が十全に備わっており、弾くだけで奏者に音楽を喚起するようなところさえあるギターとなっています。
表面板力木配置はサウンドホール上側(ネック側)に1本のハーモニックバーとネック脚に近接する位置に繊細な造りの補強バーが1本、下側(ブリッジ側)に1本のハーモニックバーを設置。このサウンドホール下側のバーは高音側と低音側とにそれぞれ長さ5cm、高さ3mmほどの開口部が設けられています。ボディ下部は左右対称5本の扇状力木と、ブリッジ位置(正確にはサドルの位置)にほぼ横幅いっぱいにわたって設置されているいわゆるトランスヴァースバー。5本の扇状力木はこのトランスヴァースバーを貫通してボトムぎりぎりのところにそれらの下端が位置しています。また高音側と低音側それぞれの一番外側に配置された力木の上端はサウンドホール下側ハーモニックバーの開口部をくぐり抜け切るぎりぎりのところに位置しています。ブーシェの特徴的な構造であるこのトランスヴァースバーは低音側から高音側に向かって緩やかに高くなるように造られ(実際には一番高音側から2番目の力木の位置が最も高くなっています)、その両端は横板に接する手前で表面板までカーブを描いて降りてゆくように造形されています。5本の力木との交差部分は隙間なく組み込まれており、強固なトランスヴァースバーがはるかに繊細な造りの力木を押さえ込むようにして設置されているのが特徴です。さらにこれもブーシェ的構造に特有のものですが、サウンドホール下ハーモニックバー接する形で1.5×3.0cm、2mm厚の2枚の小さな補強プレ―トが5本のうち中央3本の力木の間に設置されています。レゾナンスはG#の少し上に設定されています。
上記の構造により、弦の弾性エネルギー(まさしくサドルの位置にトランスヴァースバーが設置していることに注目しておく必要があります)が異様な密度をもった音になり、さらにその音像に類まれな重力を付加し持続させる、あのブーシェ的な響きが生まれます。まるでタッチにまとわりついてくるような重厚でしかし明晰な発音機能、そして単なる倍音の豊かさによって生み出されるものとは異なる、響箱の響きそのものとしての独特の深い奥行きの創出などは、まさしくこのモデルならではと言えるでしょう。
もちろん音響だけではなく造作精度と仕上がりのセンスの点でもオリジナルを彷彿とさせる栗山氏の仕事は素晴らしく、一見してわかるボディラインとヘッドシェイプ、やや黄色味のある表面板と緑色を基調にした渋い意匠のロゼッタとのコントラスト、その全体が繊細なセラック塗装で仕上げられ、威容と優美さが共存した外観が魅力的。
ネックはほぼスクエア(四角形)と言えるほどのDシェイプで、厚みは普通ですが独特のグリップ感。糸巻きはGotoh製のカスタムモデル(ゴールドのプレーンプレート)を装着。