ネック:セドロ指 板:エボニー塗 装:セラック糸 巻:フステーロ弦 高:1弦 2.7mm /6弦 4.2mm[製作家情報]100年以上続く歴史ある工房にして世界的にも有名なスパニッシュギターブランドのひとつ ホセ・ラミレス Jose Ramirez。ホセ・ラミレス1世(1858~1923)の時代から現在のホセ・ラミレス5世まで、1世紀以上に渡りスパニッシュギター製作史のなかで最も重要なブランドの一つとしてその名を刻み続けており、いまなおワールドワイドにマーケットを展開する工房です。なかでもとりわけ評価が高く「Ramirez dynasty」 と言われるほどに豊饒の時代とされたホセ・ラミレス3世(1922~1995)の時期に製作されたギターは、革新的でありながら幅広いポピュラリティを獲得し、世界中のギタリストとギターファンとを魅了し続けました。1950年代末から1960年代、パウリーノ・ベルナベ、マリアーノ・テサーノスといった名職人が職工長として働き、高級手工品の品質を維持しながら大量生産を可能した独自の工房システムを確立します。そして1964年にこのブランドのフラッグシップモデルとして世に出した「1A」は、表面板にそれまでの松材に代わって杉材を使用、胴の厚みを大きくとり、横板は内側にシープレス材を貼り付けた二重構造、弦長は664mmで設定(通常は650mm)、さらに塗装には従来のセラック塗装からユリア樹脂のものに変更し耐久性を飛躍的に増すとともに、「ラミレストーン」と呼ばれる独特の甘く艶やかな音色を生み出し、真っ赤にカラーリングされた印象的な外観と相まってギター史上空前のポピュラリティを獲得することになります。これらラミレス3世がクラシックギターに対して行った改革はマーケット戦略の面でも、また製作の面でも実に独創的でしかも時代の要請に十全に応じたもので、のちのギター製作全般に大きすぎるほどの影響を及ぼしたのと同時に、まさにクラシックギターのイメージを決定するほどに一世を風靡しました。ラミレス3世の息子4世(1953~2000)は18歳の時に父ラミレス3世の工房にて徒弟として働くようになり、1977年には正式に職人として認められます。1988年には妹のアマリアと共にブランドの経営を任されるようになり、父の製作哲学を引き継ぎながら、より時代のニーズに則した販売戦略(エステューディオモデルの製作、標準的な650mmスケールの採用等々)を展開しさらにシェアを拡大してゆきますが、3世亡き後わずか5年後の2000年にこの世を去ります。その後もアマリアを中心に柔軟な商品開発を継続しますが、2000年代以降はむしろ名手アンドレス・セゴビアの名演と共にその音色が記憶に残る3世と4世の時代につくられたモデルに人気が集中するようになり、特に製作を担当した職人のイニシャルが刻印されていた1960年代のものは往年のファンに現在も愛奏されています。[楽器情報]ホセ・ラミレス3世 1962年製作(MT スタンプ)。当時のラミレス工房はパウリーノ・ベルナベを職工長に、十数名の精鋭たちが製作にあたっており、完成した楽器には製作担当者のイニシャルが刻印されていました。当楽器の「MT」は先代のマリアーノ・テサーノス(1915~1982)製作のもの。1960年代の10年間ラミレスの黄金期を支えた最重要人物の一人です。MTスタンプのラミレスギターはなんといってもアンドレス・セゴビアが使用し、ナルシソ・イエペスの最初の10弦ギターを製作したことで深くギターファンの記憶に刻まれていることでしょう。職工長のベルナベと並ぶ製作技術を持ち、そのギターは同時期のラミレスの中でも突出した完成度を誇っています。ラベルにはまだ「1A」の表記や製造番号の表記はありません。MTのイニシャルはボディ内部のネックの脚部分にスタンプされています。ラミレスが現在まで続くことになるフラッグシップモデル「1A」の仕様を確立し、爆発的な需要を巻き起こすことになるのは1964~1965年にかけてですが(1Aの基本スペックは1964年に出来上がっていたものの、最初は杉ではなく松材の使用が主でした)、本作はそれにさらに先立つ時期のもの。「1A」の基本スペックはこの時期にほぼ完成しており、ボディシェイプ、664mmのスケール設定、そして表面板の力木配置などはのちの「1A」と全く同じになります。ここからさらに1965年には表面板にレッドセダー(杉)を使用し、塗装はユリア樹脂、横板は内側にシープレス材を貼り付けた2重仕様(本作は中南米ローズウッドの単板仕様となっています)とさらにスペックを変容させていくことになります。しかしながら移行期の作とするには本器1962年製はあまりに優れた一本となっており、むしろのちのマーケット志向の作よりも、ラミレスというブランドのスペインギターの正統性が円満にしかも高度に具現化された逸品と言える個体です。表面板力木構造は1A モデルの基本形と同じ、サウンドホール上下(ネック側とブリッジ側)に一本ずつのハーモニックバー、このうち下側バーの中央で(つまりサウンドホールのちょうど真下のところで)低音側から高音側に向かって表面板を斜めに下がってゆくように設置されたもう一本のバーが交差しています。これら3本のバーのうち下側バーと斜めのバーの2本は低音側に長さ5cm高さ2mmほどの開口部が設けられています。ボディ下部は6本の扇状力木がセンターの1本を境にして高音側に2本、低音側に3本を配し、ボトム部分でこれらの先端を受け止めるように2本のクロージングバーがハの字型に配置されています。ブリッジ位置には駒板の範囲をカバーするように薄いパッチ板が貼られています。レゾナンスはGの少し上の設定。のちの「1A」が高音を前景化させてメロディーを強調させるような音響設計を目指していたのに対し、本作では高音部の歌としてのアイデンティティを明確にしながらも、適切な重心設定(Gのレゾナンス)による低音~中低音の安定した響きが支えており、その全体のバランスが実に自然で心地良いものになっています。発音は木を叩くようなアタック感とともに箱の奥から響く、たっぷりとした大きさを持った音像として現れ、音圧の高さはこのブランドならではの迫力がありますが、あくまでも上品なのはテサーノスゆえの着地でしょうか。同じく発音における程よくわずかな粘りが、旋律としての有機的なうねりを生み出しており、ここにもまたのちのラミレスには聴くことのできない「抑制による気品」があります。さらに特筆すべきはタッチに対する反応の良さで、自然にドライブ感が生まれてゆくような発音の速さはもちろん、音色(とそれにともなう表情)の変化、そして繊細な微音から強奏(ラミレスのポテンシャルを活かしきったような)までのダイナミックな振幅、これらがあくまでも奏者の音楽的要求に準ずるかのように発動し、楽音としての充実した響きを常に聴かせます。全体はセラック塗装仕上げですがおそらく一度再塗装されており、現在は細かく浅い傷が散在しているだけのきれいな外観です。表面板の駒板からボトム部にかけて2か所割れ補修歴があります(内側パッチ板補修あり)。横裏板は割れ等の大きな補修歴は無く、現状で塗装に若干の擦れが見られる程度の良好な状態。ネック裏もおそらく再塗装されており、わずかに演奏時の爪キズありますがきれいな状態です。指板は二重指板による調整歴があり、現状でネックは真っ直ぐを維持しています。またフレットも適正状態を維持しています。ネック形状は普通の厚みのDシェイプ、弦高値は2.7/4.2mm(1弦/6弦 12フレット)でサドル余剰は1.5~2.5mmありますのでお好みに応じてさらに低く設定することも可能です。664mmスケールですが弦の張りは中庸で、左手は押さえやすく設定されていますので上記設定値のままでも特にストレスは感じません。重量は1.56㎏。
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ネック:セドロ
指 板:エボニー
塗 装:セラック
糸 巻:フステーロ
弦 高:1弦 2.7mm /6弦 4.2mm
[製作家情報]
100年以上続く歴史ある工房にして世界的にも有名なスパニッシュギターブランドのひとつ ホセ・ラミレス Jose Ramirez。ホセ・ラミレス1世(1858~1923)の時代から現在のホセ・ラミレス5世まで、1世紀以上に渡りスパニッシュギター製作史のなかで最も重要なブランドの一つとしてその名を刻み続けており、いまなおワールドワイドにマーケットを展開する工房です。
なかでもとりわけ評価が高く「Ramirez dynasty」 と言われるほどに豊饒の時代とされたホセ・ラミレス3世(1922~1995)の時期に製作されたギターは、革新的でありながら幅広いポピュラリティを獲得し、世界中のギタリストとギターファンとを魅了し続けました。1950年代末から1960年代、パウリーノ・ベルナベ、マリアーノ・テサーノスといった名職人が職工長として働き、高級手工品の品質を維持しながら大量生産を可能した独自の工房システムを確立します。そして1964年にこのブランドのフラッグシップモデルとして世に出した「1A」は、表面板にそれまでの松材に代わって杉材を使用、胴の厚みを大きくとり、横板は内側にシープレス材を貼り付けた二重構造、弦長は664mmで設定(通常は650mm)、さらに塗装には従来のセラック塗装からユリア樹脂のものに変更し耐久性を飛躍的に増すとともに、「ラミレストーン」と呼ばれる独特の甘く艶やかな音色を生み出し、真っ赤にカラーリングされた印象的な外観と相まってギター史上空前のポピュラリティを獲得することになります。
これらラミレス3世がクラシックギターに対して行った改革はマーケット戦略の面でも、また製作の面でも実に独創的でしかも時代の要請に十全に応じたもので、のちのギター製作全般に大きすぎるほどの影響を及ぼしたのと同時に、まさにクラシックギターのイメージを決定するほどに一世を風靡しました。
ラミレス3世の息子4世(1953~2000)は18歳の時に父ラミレス3世の工房にて徒弟として働くようになり、1977年には正式に職人として認められます。1988年には妹のアマリアと共にブランドの経営を任されるようになり、父の製作哲学を引き継ぎながら、より時代のニーズに則した販売戦略(エステューディオモデルの製作、標準的な650mmスケールの採用等々)を展開しさらにシェアを拡大してゆきますが、3世亡き後わずか5年後の2000年にこの世を去ります。
その後もアマリアを中心に柔軟な商品開発を継続しますが、2000年代以降はむしろ名手アンドレス・セゴビアの名演と共にその音色が記憶に残る3世と4世の時代につくられたモデルに人気が集中するようになり、特に製作を担当した職人のイニシャルが刻印されていた1960年代のものは往年のファンに現在も愛奏されています。
[楽器情報]
ホセ・ラミレス3世 1962年製作(MT スタンプ)。当時のラミレス工房はパウリーノ・ベルナベを職工長に、十数名の精鋭たちが製作にあたっており、完成した楽器には製作担当者のイニシャルが刻印されていました。当楽器の「MT」は先代のマリアーノ・テサーノス(1915~1982)製作のもの。1960年代の10年間ラミレスの黄金期を支えた最重要人物の一人です。MTスタンプのラミレスギターはなんといってもアンドレス・セゴビアが使用し、ナルシソ・イエペスの最初の10弦ギターを製作したことで深くギターファンの記憶に刻まれていることでしょう。職工長のベルナベと並ぶ製作技術を持ち、そのギターは同時期のラミレスの中でも突出した完成度を誇っています。
ラベルにはまだ「1A」の表記や製造番号の表記はありません。MTのイニシャルはボディ内部のネックの脚部分にスタンプされています。ラミレスが現在まで続くことになるフラッグシップモデル「1A」の仕様を確立し、爆発的な需要を巻き起こすことになるのは1964~1965年にかけてですが(1Aの基本スペックは1964年に出来上がっていたものの、最初は杉ではなく松材の使用が主でした)、本作はそれにさらに先立つ時期のもの。「1A」の基本スペックはこの時期にほぼ完成しており、ボディシェイプ、664mmのスケール設定、そして表面板の力木配置などはのちの「1A」と全く同じになります。ここからさらに1965年には表面板にレッドセダー(杉)を使用し、塗装はユリア樹脂、横板は内側にシープレス材を貼り付けた2重仕様(本作は中南米ローズウッドの単板仕様となっています)とさらにスペックを変容させていくことになります。しかしながら移行期の作とするには本器1962年製はあまりに優れた一本となっており、むしろのちのマーケット志向の作よりも、ラミレスというブランドのスペインギターの正統性が円満にしかも高度に具現化された逸品と言える個体です。
表面板力木構造は1A モデルの基本形と同じ、サウンドホール上下(ネック側とブリッジ側)に一本ずつのハーモニックバー、このうち下側バーの中央で(つまりサウンドホールのちょうど真下のところで)低音側から高音側に向かって表面板を斜めに下がってゆくように設置されたもう一本のバーが交差しています。これら3本のバーのうち下側バーと斜めのバーの2本は低音側に長さ5cm高さ2mmほどの開口部が設けられています。ボディ下部は6本の扇状力木がセンターの1本を境にして高音側に2本、低音側に3本を配し、ボトム部分でこれらの先端を受け止めるように2本のクロージングバーがハの字型に配置されています。ブリッジ位置には駒板の範囲をカバーするように薄いパッチ板が貼られています。レゾナンスはGの少し上の設定。
のちの「1A」が高音を前景化させてメロディーを強調させるような音響設計を目指していたのに対し、本作では高音部の歌としてのアイデンティティを明確にしながらも、適切な重心設定(Gのレゾナンス)による低音~中低音の安定した響きが支えており、その全体のバランスが実に自然で心地良いものになっています。発音は木を叩くようなアタック感とともに箱の奥から響く、たっぷりとした大きさを持った音像として現れ、音圧の高さはこのブランドならではの迫力がありますが、あくまでも上品なのはテサーノスゆえの着地でしょうか。同じく発音における程よくわずかな粘りが、旋律としての有機的なうねりを生み出しており、ここにもまたのちのラミレスには聴くことのできない「抑制による気品」があります。さらに特筆すべきはタッチに対する反応の良さで、自然にドライブ感が生まれてゆくような発音の速さはもちろん、音色(とそれにともなう表情)の変化、そして繊細な微音から強奏(ラミレスのポテンシャルを活かしきったような)までのダイナミックな振幅、これらがあくまでも奏者の音楽的要求に準ずるかのように発動し、楽音としての充実した響きを常に聴かせます。
全体はセラック塗装仕上げですがおそらく一度再塗装されており、現在は細かく浅い傷が散在しているだけのきれいな外観です。表面板の駒板からボトム部にかけて2か所割れ補修歴があります(内側パッチ板補修あり)。横裏板は割れ等の大きな補修歴は無く、現状で塗装に若干の擦れが見られる程度の良好な状態。ネック裏もおそらく再塗装されており、わずかに演奏時の爪キズありますがきれいな状態です。指板は二重指板による調整歴があり、現状でネックは真っ直ぐを維持しています。またフレットも適正状態を維持しています。ネック形状は普通の厚みのDシェイプ、弦高値は2.7/4.2mm(1弦/6弦 12フレット)でサドル余剰は1.5~2.5mmありますのでお好みに応じてさらに低く設定することも可能です。664mmスケールですが弦の張りは中庸で、左手は押さえやすく設定されていますので上記設定値のままでも特にストレスは感じません。重量は1.56㎏。