ネック:マホガニー指 板:黒檀塗 装:ラッカー糸 巻:ライシェル弦 高:1弦 2.9mm /6弦 4.1mm〔製作家情報〕ヘルマン・ハウザー2世 Hermann Hauser II(1911~1988)ハウザーギターは疑いなく20世紀ドイツ最高のギターブランドであり、現在も4代目がその伝統を継承し100年以上にわたって一子相伝で製作を続けている老舗です。ヘルマン・ハウザーI世(1884-1952)が、ミゲル・リョベートが所有していたアントニオ・トーレスとアンドレス・セゴビア所有のマヌエル・ラミレスをベースにして自身のギターを改良し、後にセゴビアモデルと呼ばれることになる「究極の」名モデルを製作した事は良く知られています。それはトーレスがギターの改革を行って以来最大のギター製作史における事件となり、その後のギター演奏と製作との両方に大きな影響を与えることになります。1世の息子ハウザー2世はドイツ屈指の弦楽器製作都市として知られるミッテンヴァルトで4年間ヴァイオリン製作学校で学んだ後、1930年より父の工房で働き始めます。彼ら親子はほぼ共同作業でギターを製作していましたが、ラベルはハウザー1世として出荷されています。1世が亡くなる1952年、彼は正式にこのブランドを受け継ぎ、彼自身のラベルによる最初のラベル(No.500)を製作。以来1983年に引退するまで極めて旺盛な活動をし、500本以上のギターを出荷しています。ハウザー2世もまた父親同様に名手たち(セゴビア、ジュリアン・ブリーム、ペペ・ロメロ等)との交流から自身の製作哲学を熟成させていったところがあり、また彼自身の資質であろうドイツ的な音響指向をより明確化することで、1世とはまた異なるニュアンスを持つ名品を数多く世に出しました。有名なところではなんといってもブリームが愛用した1957年製のギターですが、その音響は1世以上に透徹さを極め、すべての単音の完璧なバランスの中にクラシカルな気品を纏わせたもので、ストイックさと抒情とを併せもった唯一無二のギターとなっています。1970年代以降の彼は特にその独創性において注目されるべきペペ・ロメロモデルや、おそらくは急速に拡大した需要への柔軟な姿勢としてそれまでには採用していなかった仕様での製作も多く手がけるようになりますが、やはり完成度の高さの点では1世より引き継いだ「セゴビア」モデルが抜きんでています。その後1980年代からモダンギターの潮流が新たなスタンダードと目されていく中でも、ハウザーギターは究極のモデルとしての価値を全く減ずることなく、現在においてもマーケットでは最高値で取引されるブランドの一つとなっています。1974年からは息子のハウザー3世(1958~)が工房に加わりおよそ10年間製作をともにします。3世もまた2世のエッセンスに独自の嗜好を加味しながら、ブランドの名に恥じぬ極めて高度な完成度を有したモデルを製作し続けています。[楽器情報]ヘルマン・ハウザー2世製作 1973年製 セゴビアモデル No.935 Usedの入荷です。外観上は1世より続くこのモデルのデザインを踏襲していますが、表面板力木配置をはじめとする内部構造は1960年代後半以降に定式化した、2世により若干の改編が加えられた設計によって作られています。本器の力木設計はサウンドホール上下(ネック側とブリッジ側)に1本ずつのハーモニックバー、両脇に一枚ずつの薄い補強板を設置。この上下のバーは上側の方は真っ直ぐなバーですが、下側のものはちょうど中央でわずかに屈折しており、高音側低音側ともにややネック方向寄りのところで横板と接しています。扇状力木は左右対称7本、ボトム部のクロージングバーはなく、7本ともほぼボトムに到達する位置まで伸びています。駒板位置にはほぼ同じ面積で薄い補強板が貼られています。このネック側に向かって屈折したハーモニックバーと、ボトム部にクロージングバー(通常は2本、扇状力木の先端を受け止めるようV字または逆ハの字型に配置されている)を設置していない設計は2世独自のもので、表面板下部の振動領域を低音高音側ともに広くとっているのですが、この発想は実はクラシックギターではむしろ珍しい。レゾナンスはAの少し下に設定されています。撥弦と発音がほぼ完全に同一化したような速い反応で、ハウザーとしてはやや粘りを抑えた発音から上品な艶を湛えた音像が現れ、旋律は粒立ちの良い点の列のように音が連なってゆき、その凛とした響きがなんとも清々しく心地良い。高めのレゾナンスのせいか低音はその重心をしっかりと感じさせながらもむしろすっきりとしており、高音が自然に前景化するような音響設計、そのためかハウザーとしては明るく、軽快ささえ感じさせる全体の響きなっています。とはいえ必要に応じて力強く十全に鳴り、ストイックな相貌のなかに多様な表情を含蓄した音などいかにもクラシカルで、表現楽器としての高いポテンシャルを有しています。出荷時オリジナルのラッカー塗装で、全体に細かなウェザーチェック(ひび割れ)を生じていますが塗装の性質に由来する経年の自然変化ですので現状で全く問題ありません。そのた軽微な弾きキズや数か所にちいさな打痕、駒板下部分に弦交換時のキズが少々あります。横裏板は演奏時に胸の当たる部分などボタン等衣服による摩擦やスクラッチあとがありますが、製作年を考慮しますと総体的に良好な状態と言えます。ネックはわずかに順反りですが標準設定の範囲内、フレットは1~7フレットでやや摩耗見られますが現状で演奏性に問題ありません。ネックシェイプはやや薄めのDシェイプ、弦高値は2.9/4.1mm(1弦/6弦 12フレット)でサドル余剰は1.0~1.5mmあります。重量は1.55㎏。
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ネック:マホガニー
指 板:黒檀
塗 装:ラッカー
糸 巻:ライシェル
弦 高:1弦 2.9mm /6弦 4.1mm
〔製作家情報〕
ヘルマン・ハウザー2世 Hermann Hauser II(1911~1988)
ハウザーギターは疑いなく20世紀ドイツ最高のギターブランドであり、現在も4代目がその伝統を継承し100年以上にわたって一子相伝で製作を続けている老舗です。ヘルマン・ハウザーI世(1884-1952)が、ミゲル・リョベートが所有していたアントニオ・トーレスとアンドレス・セゴビア所有のマヌエル・ラミレスをベースにして自身のギターを改良し、後にセゴビアモデルと呼ばれることになる「究極の」名モデルを製作した事は良く知られています。それはトーレスがギターの改革を行って以来最大のギター製作史における事件となり、その後のギター演奏と製作との両方に大きな影響を与えることになります。1世の息子ハウザー2世はドイツ屈指の弦楽器製作都市として知られるミッテンヴァルトで4年間ヴァイオリン製作学校で学んだ後、1930年より父の工房で働き始めます。彼ら親子はほぼ共同作業でギターを製作していましたが、ラベルはハウザー1世として出荷されています。1世が亡くなる1952年、彼は正式にこのブランドを受け継ぎ、彼自身のラベルによる最初のラベル(No.500)を製作。以来1983年に引退するまで極めて旺盛な活動をし、500本以上のギターを出荷しています。
ハウザー2世もまた父親同様に名手たち(セゴビア、ジュリアン・ブリーム、ペペ・ロメロ等)との交流から自身の製作哲学を熟成させていったところがあり、また彼自身の資質であろうドイツ的な音響指向をより明確化することで、1世とはまた異なるニュアンスを持つ名品を数多く世に出しました。有名なところではなんといってもブリームが愛用した1957年製のギターですが、その音響は1世以上に透徹さを極め、すべての単音の完璧なバランスの中にクラシカルな気品を纏わせたもので、ストイックさと抒情とを併せもった唯一無二のギターとなっています。
1970年代以降の彼は特にその独創性において注目されるべきペペ・ロメロモデルや、おそらくは急速に拡大した需要への柔軟な姿勢としてそれまでには採用していなかった仕様での製作も多く手がけるようになりますが、やはり完成度の高さの点では1世より引き継いだ「セゴビア」モデルが抜きんでています。その後1980年代からモダンギターの潮流が新たなスタンダードと目されていく中でも、ハウザーギターは究極のモデルとしての価値を全く減ずることなく、現在においてもマーケットでは最高値で取引されるブランドの一つとなっています。
1974年からは息子のハウザー3世(1958~)が工房に加わりおよそ10年間製作をともにします。3世もまた2世のエッセンスに独自の嗜好を加味しながら、ブランドの名に恥じぬ極めて高度な完成度を有したモデルを製作し続けています。
[楽器情報]
ヘルマン・ハウザー2世製作 1973年製 セゴビアモデル No.935 Usedの入荷です。外観上は1世より続くこのモデルのデザインを踏襲していますが、表面板力木配置をはじめとする内部構造は1960年代後半以降に定式化した、2世により若干の改編が加えられた設計によって作られています。
本器の力木設計はサウンドホール上下(ネック側とブリッジ側)に1本ずつのハーモニックバー、両脇に一枚ずつの薄い補強板を設置。この上下のバーは上側の方は真っ直ぐなバーですが、下側のものはちょうど中央でわずかに屈折しており、高音側低音側ともにややネック方向寄りのところで横板と接しています。扇状力木は左右対称7本、ボトム部のクロージングバーはなく、7本ともほぼボトムに到達する位置まで伸びています。駒板位置にはほぼ同じ面積で薄い補強板が貼られています。このネック側に向かって屈折したハーモニックバーと、ボトム部にクロージングバー(通常は2本、扇状力木の先端を受け止めるようV字または逆ハの字型に配置されている)を設置していない設計は2世独自のもので、表面板下部の振動領域を低音高音側ともに広くとっているのですが、この発想は実はクラシックギターではむしろ珍しい。レゾナンスはAの少し下に設定されています。
撥弦と発音がほぼ完全に同一化したような速い反応で、ハウザーとしてはやや粘りを抑えた発音から上品な艶を湛えた音像が現れ、旋律は粒立ちの良い点の列のように音が連なってゆき、その凛とした響きがなんとも清々しく心地良い。高めのレゾナンスのせいか低音はその重心をしっかりと感じさせながらもむしろすっきりとしており、高音が自然に前景化するような音響設計、そのためかハウザーとしては明るく、軽快ささえ感じさせる全体の響きなっています。とはいえ必要に応じて力強く十全に鳴り、ストイックな相貌のなかに多様な表情を含蓄した音などいかにもクラシカルで、表現楽器としての高いポテンシャルを有しています。
出荷時オリジナルのラッカー塗装で、全体に細かなウェザーチェック(ひび割れ)を生じていますが塗装の性質に由来する経年の自然変化ですので現状で全く問題ありません。そのた軽微な弾きキズや数か所にちいさな打痕、駒板下部分に弦交換時のキズが少々あります。横裏板は演奏時に胸の当たる部分などボタン等衣服による摩擦やスクラッチあとがありますが、製作年を考慮しますと総体的に良好な状態と言えます。ネックはわずかに順反りですが標準設定の範囲内、フレットは1~7フレットでやや摩耗見られますが現状で演奏性に問題ありません。ネックシェイプはやや薄めのDシェイプ、弦高値は2.9/4.1mm(1弦/6弦 12フレット)でサドル余剰は1.0~1.5mmあります。重量は1.55㎏。