ネック:マホガニー指 板:エボニー塗 装:表板 セラック :横裏板 セラック糸 巻:ゴトー弦 高:1弦 3.0mm :6弦 4.0mm[製作家情報]トーマス・ハンフリー(1948~2008)アメリカ、ミネソタ州生まれ。かなり若い時からチェロを本格的に学んでおり、本人曰くこれがギター製作の大きなバックグラウンドになったとのこと。1970年にニューヨークを訪れ、同地にギターショップを構えていたマイケル・グリアンに弟子入りし、働きながら11年にわたり製作を学びます。1981年にロサンジェルスに訪れた際に彼はあの名手アンドレス・セゴビアの主宰するマスタークラスの洗礼を受け、さらには同地の著名なコレクターの所有するスペイン製の多くの名器に触れたことで自身のたどるべき道を確信します。直後の1982年には一年をかけてスパニッシュギターの研究に費やし伝統的な工法を完全に熟知すると同時に、あの真に革新的なMillenniumモデル製作の実践も始め、1985年には試作第一号を製作します。Millenniumモデルの最大の特徴は表面板の指板横のエリアをネックヒールに向かって薄くなるように傾斜させることで必然的に12フレット以降の指板が盛り上がったような設定になり(Raised fingerboard)、ハイフレットでの演奏性を向上させるとともに表面板の弦振動効率を上げ、高い演奏性と音量の増大というクラシックギターの「弱点」を克服するとともに、その「ハープのような」ヴィジュアルによる特異なルックスがあげられます。そのギター製作における歴史的な意味は大きく、その後多くのフォロワーを生み出すとともに、エリオット・フィスクやアサドなどヴィルトゥオーゾらの高度な要求にも完璧に応えうるモデルとして、モダンギターの一つのスタンダードとなりました。同時代のアメリカを代表する製作家であるロバート・ラック、ジョン・ギルバートらと並ぶ、アメリカ発モダンギター最大の巨匠の一人とされましたが、2008年4月に急逝。なお彼の考案したレイズドフィンガーボード構造は Pat No.4873909 の特許を取得しており、ボディ内部のネック脚部分に左記の番号が刻印されています。[楽器情報]トーマス・ハンフリー 1995年製作 Millennium(ミレニアムモデル)Used です。ハンフリーの代表作であり、G.スモールマンのLattice構造、M.Damann のダブルトップ構造と並びモダンギターのスタンダードを創出した稀有なモデルです。彼のキャリアのなかでは比較的初期と言える作ですが、工作精度のみならず、音響バランス、ギターとしての表現力の高さ、卓越した演奏性などのすべての要素が極めて高次における統一的な完成を達成しており、誠に名器の名に恥じぬ一本となっています。その「ハープのような」特徴的ルックス(12フレットで指板の表面板からの高さが2.7cm、20Fでも1.7cm)がクローズアップされがちですが、ハンフリーはむしろ他のモダンギターの傾向(音量の増大、画一的な音響、鋭敏な反応など)と全く異なる、ある意味「反動的な」とも言えるほどにトラディショナルで味わい深い音色とその類まれな表現力によって評価されるべきでしょう。非常な滋味を湛えた響きがハンフリーならではの慎ましい洗練によって清新な佇まいとなり、その落ち着きと鋭さが同居した音響がなんとも素晴らしい。Bassとしての明確なアイデンティティを持ったたっぷりとした低音と、雄弁な内声部を構成する中低音、そして細くしかしなやかで芯の強い高音へと至る全体のバランスも有機的で、音楽が自然な流れを生み出すのに寄与しています。加えてタッチにほとんどまとわりつくような高い発音の反応性と特に高音における繊細な歌の表現も特筆すべき点となっています。表面板のアッパー部分を大胆に傾斜させることで指板が持ち上がったような設定になっているのですが、ボディを薄くすることによる響きへのデメリットは全く感じさせません。むしろ容積の縮小を活かして発音の反応性を高めると同時に、トーレス的な力木配置を楽器構造に即して無理なくアップデートしたあくまでもシンプルな設計によって、上記のようなナチュラルな響きの統一感を達成するに至っています。付言すれば、チェロの演奏を能くした彼だけに、この外形的設計の発想はやはり弦楽器の指板設定を参照したと想像することはできると思います。Millennium モデルという名称と外観では統一されていましたが、実は彼は表面板の力木構造において様々な配置を試みています。本器の力木配置はサウンドホール上側(ネック側)で2本のハーモニックバーを交差させるXブレーシング配置に、下側(ブリッジ側)は1本のハーモニックバー、そして扇状力木は5本がそれぞれ平行に近い形でほぼロゼッタの直径に収まるほどに中央に寄せて配置されており、それらの先端をボトム部で受け止めるようにV字型に配置された2本クロージングバーを設置。さらには計3本のバーがサウンドホールとブリッジの間に1本、ブリッジ上(サドルの位置)に1本、ブリッジとクロージングバーの間に1本設置されているのですが、これらは5本の扇状力木と高さも幅も同じサイズに成形され、互いに面一で直交しているのでバーというよりは格子状力木のヴァリエーションとみるべきかもしれません。レゾナンスはF#~Gの間に設定されています。ほぼ柾目の見事なハカランダを使用。全面セラック塗装仕上げで、表面板は年代相応の弾きキズ、擦れ、塗装摩耗等は年代相応にありますがいかにも自然な経年変化で、外観的に品位を保持しています。横裏板は演奏時に腕などが当たる部分の塗装ムラのほかは軽微なキズのみで比較的きれいな状態です。割れ等の修理履歴はありません。ネックはほんのわずかに順反りですが標準設定の範囲内。フレットはわずかに摩耗ありますがこちらも演奏性には影響のないレベルです。ネック形状は薄めのDシェイプ。弦高値は3.0/4.0mm(1弦/6弦 12フレット)でサドル余剰は1.0~2.0mmとなっています。弦の張りは中庸で押さえやすいので左手はさほどストレスを感じずに弾くことができます。糸巻はGotoh 製510シリーズを装着(ハンフリーは初期においてGotoh製を好んで使用していました)。20フレット仕様。重量は1.59㎏。
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ネック:マホガニー
指 板:エボニー
塗 装:表板 セラック
:横裏板 セラック
糸 巻:ゴトー
弦 高:1弦 3.0mm
:6弦 4.0mm
[製作家情報]
トーマス・ハンフリー(1948~2008)アメリカ、ミネソタ州生まれ。かなり若い時からチェロを本格的に学んでおり、本人曰くこれがギター製作の大きなバックグラウンドになったとのこと。1970年にニューヨークを訪れ、同地にギターショップを構えていたマイケル・グリアンに弟子入りし、働きながら11年にわたり製作を学びます。1981年にロサンジェルスに訪れた際に彼はあの名手アンドレス・セゴビアの主宰するマスタークラスの洗礼を受け、さらには同地の著名なコレクターの所有するスペイン製の多くの名器に触れたことで自身のたどるべき道を確信します。直後の1982年には一年をかけてスパニッシュギターの研究に費やし伝統的な工法を完全に熟知すると同時に、あの真に革新的なMillenniumモデル製作の実践も始め、1985年には試作第一号を製作します。Millenniumモデルの最大の特徴は表面板の指板横のエリアをネックヒールに向かって薄くなるように傾斜させることで必然的に12フレット以降の指板が盛り上がったような設定になり(Raised fingerboard)、ハイフレットでの演奏性を向上させるとともに表面板の弦振動効率を上げ、高い演奏性と音量の増大というクラシックギターの「弱点」を克服するとともに、その「ハープのような」ヴィジュアルによる特異なルックスがあげられます。そのギター製作における歴史的な意味は大きく、その後多くのフォロワーを生み出すとともに、エリオット・フィスクやアサドなどヴィルトゥオーゾらの高度な要求にも完璧に応えうるモデルとして、モダンギターの一つのスタンダードとなりました。
同時代のアメリカを代表する製作家であるロバート・ラック、ジョン・ギルバートらと並ぶ、アメリカ発モダンギター最大の巨匠の一人とされましたが、2008年4月に急逝。なお彼の考案したレイズドフィンガーボード構造は Pat No.4873909 の特許を取得しており、ボディ内部のネック脚部分に左記の番号が刻印されています。
[楽器情報]
トーマス・ハンフリー 1995年製作 Millennium(ミレニアムモデル)Used です。ハンフリーの代表作であり、G.スモールマンのLattice構造、M.Damann のダブルトップ構造と並びモダンギターのスタンダードを創出した稀有なモデルです。彼のキャリアのなかでは比較的初期と言える作ですが、工作精度のみならず、音響バランス、ギターとしての表現力の高さ、卓越した演奏性などのすべての要素が極めて高次における統一的な完成を達成しており、誠に名器の名に恥じぬ一本となっています。
その「ハープのような」特徴的ルックス(12フレットで指板の表面板からの高さが2.7cm、20Fでも1.7cm)がクローズアップされがちですが、ハンフリーはむしろ他のモダンギターの傾向(音量の増大、画一的な音響、鋭敏な反応など)と全く異なる、ある意味「反動的な」とも言えるほどにトラディショナルで味わい深い音色とその類まれな表現力によって評価されるべきでしょう。非常な滋味を湛えた響きがハンフリーならではの慎ましい洗練によって清新な佇まいとなり、その落ち着きと鋭さが同居した音響がなんとも素晴らしい。Bassとしての明確なアイデンティティを持ったたっぷりとした低音と、雄弁な内声部を構成する中低音、そして細くしかしなやかで芯の強い高音へと至る全体のバランスも有機的で、音楽が自然な流れを生み出すのに寄与しています。加えてタッチにほとんどまとわりつくような高い発音の反応性と特に高音における繊細な歌の表現も特筆すべき点となっています。
表面板のアッパー部分を大胆に傾斜させることで指板が持ち上がったような設定になっているのですが、ボディを薄くすることによる響きへのデメリットは全く感じさせません。むしろ容積の縮小を活かして発音の反応性を高めると同時に、トーレス的な力木配置を楽器構造に即して無理なくアップデートしたあくまでもシンプルな設計によって、上記のようなナチュラルな響きの統一感を達成するに至っています。付言すれば、チェロの演奏を能くした彼だけに、この外形的設計の発想はやはり弦楽器の指板設定を参照したと想像することはできると思います。
Millennium モデルという名称と外観では統一されていましたが、実は彼は表面板の力木構造において様々な配置を試みています。本器の力木配置はサウンドホール上側(ネック側)で2本のハーモニックバーを交差させるXブレーシング配置に、下側(ブリッジ側)は1本のハーモニックバー、そして扇状力木は5本がそれぞれ平行に近い形でほぼロゼッタの直径に収まるほどに中央に寄せて配置されており、それらの先端をボトム部で受け止めるようにV字型に配置された2本クロージングバーを設置。さらには計3本のバーがサウンドホールとブリッジの間に1本、ブリッジ上(サドルの位置)に1本、ブリッジとクロージングバーの間に1本設置されているのですが、これらは5本の扇状力木と高さも幅も同じサイズに成形され、互いに面一で直交しているのでバーというよりは格子状力木のヴァリエーションとみるべきかもしれません。レゾナンスはF#~Gの間に設定されています。
ほぼ柾目の見事なハカランダを使用。全面セラック塗装仕上げで、表面板は年代相応の弾きキズ、擦れ、塗装摩耗等は年代相応にありますがいかにも自然な経年変化で、外観的に品位を保持しています。横裏板は演奏時に腕などが当たる部分の塗装ムラのほかは軽微なキズのみで比較的きれいな状態です。割れ等の修理履歴はありません。ネックはほんのわずかに順反りですが標準設定の範囲内。フレットはわずかに摩耗ありますがこちらも演奏性には影響のないレベルです。ネック形状は薄めのDシェイプ。弦高値は3.0/4.0mm(1弦/6弦 12フレット)でサドル余剰は1.0~2.0mmとなっています。弦の張りは中庸で押さえやすいので左手はさほどストレスを感じずに弾くことができます。糸巻はGotoh 製510シリーズを装着(ハンフリーは初期においてGotoh製を好んで使用していました)。20フレット仕様。重量は1.59㎏。