[製作家情報] ホセ・ラミレス Jose Ramirez スペイン、マドリッドのクラシックギターブランドで、ホセ・ラミレス1世(1858~1923)、2世(1885~1957)の時代から現在のホセ・ラミレス5世まで、1世紀以上に渡りスパニッシュギター製作史のなかで最も重要なブランドの一つとしてその名を刻み続けており、いまなおワールドワイドにマーケットを展開する工房です。
〔楽器情報〕 ホセ・ラミレス3世 1959年製 Used 珍しい一本が入荷です。本器が製作される2年前の1957年に2世が亡くなっており、3世のもとラミレス工房はいよいよあの豊穣の時代へと突入してゆきます。59年の時点ではその移行期といえるものの体制は整いつつあったらしく、パウリーノ・ベルナベやマリアーノ・テサーノスといった熟練職工達は既に自身の製作した個体にイニシャルを刻印して出荷しており、楽器もマドリッドのオールドスクールな作風から後の「1A」モデルへとつながるステージパフォーマンスをより重視したものへ顕著な変化を見せてゆきます。
ネック:セドロ
指 板:不明
塗 装:表板/セラック
:横裏板/セラック
糸 巻:ベイカー
弦 高:1弦 3.2mm
:6弦 4.0mm
[製作家情報]
ホセ・ラミレス Jose Ramirez スペイン、マドリッドのクラシックギターブランドで、ホセ・ラミレス1世(1858~1923)、2世(1885~1957)の時代から現在のホセ・ラミレス5世まで、1世紀以上に渡りスパニッシュギター製作史のなかで最も重要なブランドの一つとしてその名を刻み続けており、いまなおワールドワイドにマーケットを展開する工房です。
なかでもとりわけ評価が高く「Ramirez dynasty」 と言われるほどに豊饒の時代とされたホセ・ラミレス3世(1922~1995)の時期に製作されたギターは、革新的でありながら幅広いポピュラリティを獲得し、世界中のギタリストとギターファンとを魅了し続けました。1950年代末から1960年代、パウリーノ・ベルナベ、マリアーノ・テサーノスといった名職人が職工長として働き、高級手工品の品質を維持しながら大量生産を可能した独自の工房システムを確立します。そして1964年にこのブランドのフラッグシップモデルとして世に出した「1A」は、表面板にそれまでの松材に代わって杉材を使用、胴の厚みを大きくとり、横板は内側にシープレス材を貼り付けた二重構造、弦長は664mmで設定(通常は650mm)、さらに塗装には従来のセラック塗装からユリア樹脂のものに変更し耐久性を飛躍的に増すとともに、「ラミレストーン」と呼ばれる独特の甘く艶やかな音色を生み出し、真っ赤にカラーリングされた印象的な外観と相まってクラシックギター史上空前のポピュラリティを獲得することになります。
これらラミレス3世がクラシックギターに対して行った改革はマーケット戦略の面でも、また製作の面でも実に独創的でしかも時代の要請に十全に応じたもので、のちのギター製作全般に大きすぎるほどの影響を及ぼしたのと同時に、まさにクラシックギターのイメージを決定するほどに一世を風靡しました。
ラミレス3世の息子4世(1953~2000)は18歳の時に父ラミレス3世の工房にて徒弟として働くようになり、1977年には正式に職人として認められます。1988年には妹のアマリアと共にブランドの経営を任されるようになり、父の製作哲学を引き継ぎながら、より時代のニーズに則した販売戦略(エステューディオモデルの製作、標準的な650mmスケールの採用等々)を展開しさらにシェアを拡大してゆきますが、3世亡き後わずか5年後の2000年にこの世を去ります。
4世亡きあとアマリアは彼の意を継いでより柔軟な商品開発、生産ラインの監修、そして4世の子供たち、クリスティーナとホセ・エンリケの二人の姉弟の工房スタッフとしての教育に心血を注ぎます(二人は2006年から工房で働き始めています)。現在二人は正式にブランドを継承し、クリスティーナ(グラフィックデザイナー、音響技術者としての資格も有する)がマーケティングプロジェクト全般を、ホセ・エンリケが製作と工房運営を担当しています。
名手アンドレス・セゴビアの名演と共にその音色が記憶に残る3世と4世の時代につくられたモデルは現在も人気があり、特に製作を担当した職人のイニシャルが刻印されていた1960年代のものは往年のファンに愛奏されています。
〔楽器情報〕
ホセ・ラミレス3世 1959年製 Used 珍しい一本が入荷です。本器が製作される2年前の1957年に2世が亡くなっており、3世のもとラミレス工房はいよいよあの豊穣の時代へと突入してゆきます。59年の時点ではその移行期といえるものの体制は整いつつあったらしく、パウリーノ・ベルナベやマリアーノ・テサーノスといった熟練職工達は既に自身の製作した個体にイニシャルを刻印して出荷しており、楽器もマドリッドのオールドスクールな作風から後の「1A」モデルへとつながるステージパフォーマンスをより重視したものへ顕著な変化を見せてゆきます。
本器はそのような時期のラミレス工房において、60年代への移行期の作というよりもむしろ先代そして先々代のニュアンスを多分に残した古き良きマドリッド派の音色が体感できる魅力的な一本となっています(製作担当者のイニシャルの刻印はありません)。ラベルはいわゆる「Blue label」で2世の時代からのものがそのまま使用されています。ボディはトーレスのそれを想起させるほどに(つまり19世紀のギターのように)ほどよく小ぶりなもので、重量も1.23㎏と軽く造られています。ヘッドシェイプも1世からのものを踏襲し、ロゼッタもシンプルな同心円デザイン。19世紀的な生々しい木質感が特徴の響きで、例えば1964年以降の3世の有名な1Aモデルでは高音を前景化させる独特のパースペクティヴをもった艶やかな音響が特徴ですが、本器はすべての音が彫塑的に前景化してくるような素朴な力強さがあります。
表面板内部構造はサウンドホール上下(ネック側とブリッジ側)に一本ずつのハーモニックバー、サウンドホール両脇に1枚ずつの補強プレート、左右対称7本の扇状力木という全体配置で、クロージングバーや駒板位置の補強プレートは設置されておりません。7本の扇状力木はその要が低い位置に設定されているため7本すべてがサウンドホールを中心にしてボトム方向に大きく広がっているような扇形になっています。レゾナンスはAの少し下に設定されています。
年代相応の弾き傷、擦れ、摩耗、打痕等ありますが割れ等の修理履歴のない良好な状態を維持しています。横裏板は珍しい木材でおそらくウォルナット系かと思われますが、センターの接ぎ部分に内側からパッチ補強が施されています。ネック指板はおそらく過去に一度二重指板調整が施されており、ナットの装着部分も底部に木材を追加して底上げした形跡があります。現状でネックは真っ直ぐの良好な状態を維持しており、フレットも1~5フレットでやや摩耗見られますが演奏性には影響のないレベルです。ヘッドの糸倉にはやや細工の粗さや左右非対称な部分があるのと、現在装着している糸巻き(おそらくBaker製の廉価版、ローラー部分はスチール製)のプレートとヘッド木部厚みが合っていないことから、木ペグ仕様のものを改造した可能性もあります。ネック裏は特に1~3フレット部分でカポの脱着等による凹みや一部変色がみられます。ネック形状はほぼCシェイプに近いラウンド型。弦高値は3.2/4.0mmでサドル余剰は1.5~2.5mmあります。