フレタ家はもともと家具製作など木工を生業とする家系で、イグナシオも幼少からそのような環境に馴染みがありました。13歳の頃に兄弟とともにバルセロナで楽器製作工房の徒弟となり、更に研鑽を積むためフランスでPhilippe Le Ducの弦楽器工房でチェロなどのヴァイオリン属の製作を学びます。その後フレタ兄弟共同でバルセロナに工房を設立し、ギターを含む弦楽器全般を製作するブランドとして第一次大戦前後でかなりの評判となりますが、1927年に工房は解散。イグナシオは自身の工房を設立し、彼の製作するチェロやヴァイオリンをはじめとする弦楽器は非常に好評でその分野でも名声は高まってゆきます。同時に1930年ごろからトーレスタイプのギターも製作していましたが、1955年に名手セゴビアの演奏に触れ、そのあまりの素晴らしさに感動しギター製作のみに転向することになります。フレタは巨匠の演奏から霊感をも受けたのか、その新モデルはトーレススタイルとは全く異なる発想によるものとなり、1957年に製作した最初のギターをセゴビアに献呈。すると彼はその音響にいたく感動し、自身のコンサートで使用したことで一気にフレタギターは世界的な名声を得ることになります。それまでのギターでは聞くことのできなかった豊かな音量、ダイナミズム、そしてあまりにも独特で甘美な音色でまさしくこのブランドにしかできない音響を創り上げ、セゴビア以後ジョン・ウィリアムスやアルベルト・ポンセなどをはじめとして数多くの名手たちが使用し、20世紀を代表する名器の一つとなりました。
当初はIgnacio Fletaラベルで出荷され、1965年製作のNo.359よりラベルには「e hijos」と記されるようになります(※実際には1964年製作のものより~e hijos となっておりフレタ本人の記憶違いの可能性があります)。1977年の1世亡き後も、また2000年代に入りフランシスコとガブリエルの二人も世を去ったあともなお、「Ignacio Fleta e hijos」ラベルは継承され、現在は1世の孫にあたるガブリエル・フレタが製作を引き継いでいます。
ネック:マホガニー
指 板:エボニー
塗 装:表板 セラック
:横裏板 セラック
糸 巻:フステロ
弦 高:1弦 2.8mm
:6弦 3.8mm
[製作家情報]
イグナシオ・フレタ1世(1897~1977)により設立され、のちに二人の息子フランシスコ(1925~200?)とガブリエル(1929~2013)との共作となる、スペイン、バルセロナの工房。このブランドを愛用した、または現在も愛用し続けている数々の名手たちの名を挙げるまでもなく、20世紀後半以降を代表する銘器の一つとして、いまも不動の人気を誇っています。
フレタ家はもともと家具製作など木工を生業とする家系で、イグナシオも幼少からそのような環境に馴染みがありました。13歳の頃に兄弟とともにバルセロナで楽器製作工房の徒弟となり、更に研鑽を積むためフランスでPhilippe Le Ducの弦楽器工房でチェロなどのヴァイオリン属の製作を学びます。その後フレタ兄弟共同でバルセロナに工房を設立し、ギターを含む弦楽器全般を製作するブランドとして第一次大戦前後でかなりの評判となりますが、1927年に工房は解散。イグナシオは自身の工房を設立し、彼の製作するチェロやヴァイオリンをはじめとする弦楽器は非常に好評でその分野でも名声は高まってゆきます。同時に1930年ごろからトーレスタイプのギターも製作していましたが、1955年に名手セゴビアの演奏に触れ、そのあまりの素晴らしさに感動しギター製作のみに転向することになります。フレタは巨匠の演奏から霊感をも受けたのか、その新モデルはトーレススタイルとは全く異なる発想によるものとなり、1957年に製作した最初のギターをセゴビアに献呈。すると彼はその音響にいたく感動し、自身のコンサートで使用したことで一気にフレタギターは世界的な名声を得ることになります。それまでのギターでは聞くことのできなかった豊かな音量、ダイナミズム、そしてあまりにも独特で甘美な音色でまさしくこのブランドにしかできない音響を創り上げ、セゴビア以後ジョン・ウィリアムスやアルベルト・ポンセなどをはじめとして数多くの名手たちが使用し、20世紀を代表する名器の一つとなりました。
当初はIgnacio Fletaラベルで出荷され、1965年製作のNo.359よりラベルには「e hijos」と記されるようになります(※実際には1964年製作のものより~e hijos となっておりフレタ本人の記憶違いの可能性があります)。1977年の1世亡き後も、また2000年代に入りフランシスコとガブリエルの二人も世を去ったあともなお、「Ignacio Fleta e hijos」ラベルは継承され、現在は1世の孫にあたるガブリエル・フレタが製作を引き継いでいます。
[楽器情報]
イグナシオ・フレタ1世 1962年製 No.251 の入荷です。
クラシックギターにおいて他に類するものがないと言えるほどに独特な音圧の高さとオーディトリアム感があり、ほとんどギターではない別の何ものかのような異様な大きさを感じさせます。それはモダンギターのように「増幅された音量」ではなく、響箱の容量そのもののポテンシャルが顕在化したもので、明らかにそれまでのスパニッシュギターの伝統的な音作りからは異端ともいえるアプローチの音響設計がまずは特筆すべき点でしょう。
このオーディトリアム感(「リヴァーヴ感」「奥行き感」と言い換えてもよいのですが)はこれ自体にも濁りを含んでおらず、その空間性にも透徹としたところがあります。
そして音について、ここでフレタ1世はロマンティックという言葉が喚起するであろう音楽表現に必要なものをギターで可能な限り表出してみせます。その濃密な歌と艶やかな音、明と暗の表情の揺らぎなどは生々しいほどで、弾き手に音楽を(まさに演奏しているその中で)喚起する力があることなど、何よりもまずフレタが最上の表現楽器であることを如実に感じさせてくれます。非常な音圧の高さは大音量だけに特性を特化することなく、最弱音における繊細な機微も、フォルティシシモにおける豪放さもどちらも内包するものとして、つまり隅々まで音楽的な大きな拡がりとしての性質としてあり、ここには弦楽器製作者としての彼の出自とその矜持も見て取ることも可能でしょう。高音、中低音、低音の各部のアイデンティティがそれぞれ明確でありながら全体として有機的な一つのバランスに収まっているところなどはさすがにスパニッシュギター的な特性を感じさせますが、フレタにおいては例えば曲を演奏するときに各部の個性が際立ち、まさしく室内楽的な空間を形成してしまうようなところがあるのが特徴的です。
表面板力木配置は、サウンドホール上下(ネック側とブリッジ側)に各2本のハーモニックバーが設置されていますが、下側のハーモニックバーは2本とも低音側から高音側に向けてほんのわずかに斜めに下がってゆくように設置されています(ただしこの2本は低音側でほぼ起点をおなじくしているものの平行ではなく微妙に異なる角度で設定されており、そのため高音側の横板に達する地点では数センチの開きが生じるような形になっています)。このバーより下側は合計9本の扇状力木と、これらの力木の下端をボトム部で受けとめるようにV字型に配置された2本のクロージングバー、駒板位置にはその幅よりもやや広めにとられた補強用の薄いプレートが貼られています。補強用のプレートはサウンドホールの両脇にやや広めのものが一枚ずつ、さらにはサウンドホール上側2本のハーモニックバーの間とネック脚に至るまでのエリアをほぼ満遍なく覆うように貼り付けられており、ボディウェストから上側の全域が、計4本のハーモニックバーの設置も含めて、しっかりと強固に固定されていることが分かります。一番下側(ブリッジに近い側)に設置された斜めのハーモニックバーの低音側は高さ2~3mmほどのわずかな開口部が設けられており、9本の扇状力木のうちセンターを含む5本が上端をその開口部をくぐる抜けるようにして設置されています。
フレタ1世の表面板力木構造の特徴は上記のようにしっかりと補強し振動を抑制したアッパーエリアと、斜めに配置されたサウンドホール下側ハーモニックバー、9本(通常のスペインギターは5~7本)の扇状力木となっていますが、1950年代から1960年代始めにかけては細部で異なる設計が試みられており(力木のサイズ、バーの本数等)、それに応じて音響的特徴も変化を見せています。1962年の本作においては、例えば1950年代のフレタと比較するとサウンドホール下側バーの本数は1本から2本に増えてしかも2本とも斜めになっており、しかもバー本体に開口部が設けられ扇状力木の上端がそこを通過するという、その後のフレタギターにおいても採用されていない特徴が見られます。また9本の扇状力木は年を経るごとに太く高く、つまり強固になってゆきますが、この時点ではセンターの1本がやや強固に、外側にいくほどに小さく繊細な造りになっているのもこの時期だけの特徴と言えます。レゾナンスはGの少し上に設定されています。
表面板と横板のみ今回の入荷時にセラックでの再塗装を行っており、その際に表面板の傷や打痕、割れ修理あとなどはタッチアップを施しておりますので現状できれいな状態となっています。割れは表面板のサウンドホール縁から駒板にかけて1ヵ所、駒板からボトムにかけて2か所、駒板高音側わき部分からボトムにかかけての割れが1ヵ所、下部低音側ふくらみ部分(演奏時に右ひじが当たる部分)に1箇所の割れがあります。いずれも内側より木片によるパッチ補強が施されております。裏板はネックヒールの両脇部分からボトム方向に一か所ずつ、それぞれ8センチほどの長さの割れ補修歴がありますが、その他は衣服等の摩擦あとや一部塗装のムラが若干あるのみで年代の割にはきれいな状態を維持しています。ネックは厳密にはほんのわずかに順反りですが標準設定の範囲内、フレットはこれも微妙にですが1~5フレットでやや摩耗見られます、ただしいずれも演奏性には影響なく、現状のまま継続してご使用いただけます。ネックシェイプはフレタ1世らしい角の取れた薄めのDシェイプでコンパクトなグリップ感。指板は高音側20フレット増設。弦高値は2.8mm/3.8mm(1弦/6弦 12フレット)でサドル余剰は0.5mmほどとなっています。糸巻はスペインの老舗工房フステーロのものを装着しており、おそらく出荷時のままかと思われます。3弦のツマミ軸が若干曲がっていますがギア部分には全く影響なく、全体に機能的な問題はありません。