ネック:セドロ指 板:エボニー塗 装:表板/セラック :横裏板/セラック糸 巻:ゴトー弦 高:1弦 3.0mm :6弦 3.9mm〔製作家情報〕アントニオ・マリン・モンテロ Antonio Marin Montero 1933年スペイン、グラナダ生まれ。世界有数のギター製作の街と言えるグラナダの中心的存在として、国内外の多くの後進の指導にあたり、その広範にわたる深い影響力などからも、現在スペインギター製作界最高のマエストロと呼ぶにふさわしい名工です。家具職人として出発し、のち1959年より同地の製作家エドゥアルド・フェレールの工房に入り製作を学びます。1961年には同工房出身のマヌエル・ベジードとともに共同の工房を立ち上げ、まずはキャリアをスタートさせます。その後独立し製作家としての評価も高めてゆきますが、1977年にある日本人発明家の紹介でフランスの名工ロベール・ブーシェ(1898~1986)との知遇を得て、その作風を大きく変化させていきました。このフランス最大の巨匠はマリンの非凡な才能をすぐに見抜き、その後自身がグラナダに赴いたりまたマリンをフランスに招くなどして親身にギター製作についてのアドバイスを与えています。マリンはもともとアンダルシア地方色の濃いギターを製作していましたが、ブーシェとの邂逅を機に、楽器としてより高い芸術的普遍性を追及してゆきます。そうして生まれたブーシェモデルは音響と造作の両方に於いて比類ない高みに達し、その後のグラナダを代表する名品として現在不動の評価を得るに至っています。ブーシェとの出会いのあと、1979年には有名なアルハンブラ宮殿から市街地へとカイデロ坂を下りきったところの角の場所に工房を移し、これが現在まで続いています。甥のホセ・マリン・プラスエロに加え1989年からはホセ・マリンの妹婿であるホセ・ゴンサレス・ロペス、さらに2009年には孫であるホセ・アントニオ・コリア・マリンも工房スタッフに加わり(現在は休止)、グラナダのみならずスペイン屈指の名門工房として極めて精力的な製作を行っていましたが、2025年に製作を引退。その後はホセ・マリンとゴンサレス・ロペスが同工房を運営しています。氏の人柄を慕いそしてその製作技法を学ぼうと世界中から多くの若き才能がグラナダに集まるようになり、同地はギター製作の国際都市のような様相さえ帯び始め、その影響力はさらに拡がりをみせています。2017年から同地で開催されているGranada Guitar Festivalでは氏の名前を冠した国際製作コンクールが併催されています。【楽器情報】アントニオ・マリン・モンテロ製作 Modelo E 2025年 No.201 新作です。工房の正式なアナウンスはありませんが、マエストロの製作活動引退前の最後の作品となります。このブランドのフラッグシップモデルとして知られる「Modelo B」(ブーシェモデル)とは別に、使用材のグレード、ボディ型枠やヘッドシェイプなどの外観的デザイン、さらには音質においても異なるニュアンスを持つよりハイスペックなモデルとして位置づけられる「Modelo E」。両モデルともブーシェ的内部構造を共通の設計としながらも、「B」には明朗でふくよかな響きが、「E」にはよりクラシカルな趣きとシャープネスが特徴されるなど異なるキャラクターを有しています。ブーシェとの邂逅によってもたらされたこの二人の名工による高密度な弁証法は、それまでグラナダスクールの正道を歩んできたアントニオ・マリンのすべての出自、さらにはブーシェが内包していたトーレスからフリアン・ゴメス・ラミレスに至るスペインの伝統、その双方をも無効にしてしまいかねないほどに純度が高く、そして異様な強度を持ったスペインギターをここで生み出すことになり、それは以後グラナダスクールの新たな指針となるほどの影響力を持つことになります。ここで特筆すべきは、構造的にはブーシェに準拠しながらもほぼ完全にと言ってよいほどにアントニオ・マリン独自の音響を作り上げてしまった、彼の濃密なアーティスト性にあると言えます。本作「Modelo E」新作はマリンの特性が十全に備わった、音楽的な完成度の高さにおいても素晴らしい一本です。「Modelo B」がそのキャラクターとして円満に備えていた地中海的な明朗さや解放感とは趣きを異にし、クラシカルな洗練と明暗を感じさせる音色が魅力的。発音はこの上なくしなやかでシャープな身振りですが角の取れた音像は耳に心地よく、またメロディが自然に線を形成して音楽を生み出してゆく感覚があります。そして音響全体の有機的なバランス感、スペインギター屈指といえる音圧の高さもやはり見事。このブランドのエッセンスが極めてバランスフルに凝縮された個体であり、最終作にして清冽な新作となっています。表面板力木配置はサウンドホール上側(ネック側)に1本のハーモニックバーと切妻形に加工された短い1本の補強的な力木、下側(ブリッジ側)1本のハーモニックバーを配置。そして5本の左右対称の扇状力木が、駒板と同じ位置に(より正確に言えばサドルの位置)ほぼ横幅いっぱいに設置されたいわゆるトランスヴァースバーを貫通してボトム部まで伸びているブーシェ特有の設計を踏襲。マリンはしばしばサウンドホール下側のハーモニックバーやトランスヴァースバーの加工を個体ごとに変えますが(よく見られるのはバーに開口部を設けて扇状力木がその開口部を通過するようなシステムなど)、本作では最もシンプルな構造に立ち返り、そして細部まで精巧極まりない造作で仕上げています。レゾナンスはAの少し下に設定されています。ネック形状はDシェイプの普通の厚みで造られています。弦高値は3.0/3.9mm(1弦/6弦 12フレット)でサドルには1.5mmの余剰があります。全体は美しいセラック塗装仕上げ。営期はGotoh のブーシェタイプを装着しています。重量は1.61㎏。
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ネック:セドロ
指 板:エボニー
塗 装:表板/セラック
:横裏板/セラック
糸 巻:ゴトー
弦 高:1弦 3.0mm
:6弦 3.9mm
〔製作家情報〕
アントニオ・マリン・モンテロ Antonio Marin Montero 1933年スペイン、グラナダ生まれ。世界有数のギター製作の街と言えるグラナダの中心的存在として、国内外の多くの後進の指導にあたり、その広範にわたる深い影響力などからも、現在スペインギター製作界最高のマエストロと呼ぶにふさわしい名工です。
家具職人として出発し、のち1959年より同地の製作家エドゥアルド・フェレールの工房に入り製作を学びます。1961年には同工房出身のマヌエル・ベジードとともに共同の工房を立ち上げ、まずはキャリアをスタートさせます。その後独立し製作家としての評価も高めてゆきますが、1977年にある日本人発明家の紹介でフランスの名工ロベール・ブーシェ(1898~1986)との知遇を得て、その作風を大きく変化させていきました。このフランス最大の巨匠はマリンの非凡な才能をすぐに見抜き、その後自身がグラナダに赴いたりまたマリンをフランスに招くなどして親身にギター製作についてのアドバイスを与えています。マリンはもともとアンダルシア地方色の濃いギターを製作していましたが、ブーシェとの邂逅を機に、楽器としてより高い芸術的普遍性を追及してゆきます。そうして生まれたブーシェモデルは音響と造作の両方に於いて比類ない高みに達し、その後のグラナダを代表する名品として現在不動の評価を得るに至っています。
ブーシェとの出会いのあと、1979年には有名なアルハンブラ宮殿から市街地へとカイデロ坂を下りきったところの角の場所に工房を移し、これが現在まで続いています。甥のホセ・マリン・プラスエロに加え1989年からはホセ・マリンの妹婿であるホセ・ゴンサレス・ロペス、さらに2009年には孫であるホセ・アントニオ・コリア・マリンも工房スタッフに加わり(現在は休止)、グラナダのみならずスペイン屈指の名門工房として極めて精力的な製作を行っていましたが、2025年に製作を引退。その後はホセ・マリンとゴンサレス・ロペスが同工房を運営しています。
氏の人柄を慕いそしてその製作技法を学ぼうと世界中から多くの若き才能がグラナダに集まるようになり、同地はギター製作の国際都市のような様相さえ帯び始め、その影響力はさらに拡がりをみせています。2017年から同地で開催されているGranada Guitar Festivalでは氏の名前を冠した国際製作コンクールが併催されています。
【楽器情報】
アントニオ・マリン・モンテロ製作 Modelo E 2025年 No.201 新作です。工房の正式なアナウンスはありませんが、マエストロの製作活動引退前の最後の作品となります。
このブランドのフラッグシップモデルとして知られる「Modelo B」(ブーシェモデル)とは別に、使用材のグレード、ボディ型枠やヘッドシェイプなどの外観的デザイン、さらには音質においても異なるニュアンスを持つよりハイスペックなモデルとして位置づけられる「Modelo E」。両モデルともブーシェ的内部構造を共通の設計としながらも、「B」には明朗でふくよかな響きが、「E」にはよりクラシカルな趣きとシャープネスが特徴されるなど異なるキャラクターを有しています。ブーシェとの邂逅によってもたらされたこの二人の名工による高密度な弁証法は、それまでグラナダスクールの正道を歩んできたアントニオ・マリンのすべての出自、さらにはブーシェが内包していたトーレスからフリアン・ゴメス・ラミレスに至るスペインの伝統、その双方をも無効にしてしまいかねないほどに純度が高く、そして異様な強度を持ったスペインギターをここで生み出すことになり、それは以後グラナダスクールの新たな指針となるほどの影響力を持つことになります。ここで特筆すべきは、構造的にはブーシェに準拠しながらもほぼ完全にと言ってよいほどにアントニオ・マリン独自の音響を作り上げてしまった、彼の濃密なアーティスト性にあると言えます。
本作「Modelo E」新作はマリンの特性が十全に備わった、音楽的な完成度の高さにおいても素晴らしい一本です。「Modelo B」がそのキャラクターとして円満に備えていた地中海的な明朗さや解放感とは趣きを異にし、クラシカルな洗練と明暗を感じさせる音色が魅力的。発音はこの上なくしなやかでシャープな身振りですが角の取れた音像は耳に心地よく、またメロディが自然に線を形成して音楽を生み出してゆく感覚があります。そして音響全体の有機的なバランス感、スペインギター屈指といえる音圧の高さもやはり見事。このブランドのエッセンスが極めてバランスフルに凝縮された個体であり、最終作にして清冽な新作となっています。
表面板力木配置はサウンドホール上側(ネック側)に1本のハーモニックバーと切妻形に加工された短い1本の補強的な力木、下側(ブリッジ側)1本のハーモニックバーを配置。そして5本の左右対称の扇状力木が、駒板と同じ位置に(より正確に言えばサドルの位置)ほぼ横幅いっぱいに設置されたいわゆるトランスヴァースバーを貫通してボトム部まで伸びているブーシェ特有の設計を踏襲。マリンはしばしばサウンドホール下側のハーモニックバーやトランスヴァースバーの加工を個体ごとに変えますが(よく見られるのはバーに開口部を設けて扇状力木がその開口部を通過するようなシステムなど)、本作では最もシンプルな構造に立ち返り、そして細部まで精巧極まりない造作で仕上げています。レゾナンスはAの少し下に設定されています。
ネック形状はDシェイプの普通の厚みで造られています。弦高値は3.0/3.9mm(1弦/6弦 12フレット)でサドルには1.5mmの余剰があります。全体は美しいセラック塗装仕上げ。営期はGotoh のブーシェタイプを装着しています。重量は1.61㎏。