ネック:セドロ指 板:エボニー塗 装:オイルフィニッシュ糸 巻:ロジャース弦 高:1弦 3.2mm /6弦 4.2mm〔製作家情報〕ケヴィン・アラム Kevin Aram 1949年イギリス生まれ。もともとギターの修理や復元の職人としてスタートし、M.ラミレス、D.エステソ、ハウザー1世からアルカンヘル・フェルナンデス、J.L.ロマニリョスまでに至る銘器の数々の構造を実際に検分する機会を得たことが、後の彼の製作美学に大きく影響したことは推測してあまりあるところでしょう。1991年に現在のイギリス、ノース・デヴォンに工房を移してからは、トーレスとハウザーモデルに限定して製作。当初はセラック塗装での仕上げでしたが後にクラシックの高級モデルでは珍しいオイルフィニッシュ仕様に変更(彼はこの塗装をすべて手で行っています)、木材の質感をなまなましく感じさせるとともに、薄い塗装ならではの木質感あふれる柔らかく自然な力強さを備えた響きが特徴のギターとなっています。また現在はJeffrey Elliot 考案による力木配置も採用しており、これは彼がそのキャリア初期において最も影響を受けたというロマニリョス的な設計を想起させるものとなっています。華美とは無縁の音色ながら、自らのギターはその音楽的表現力においてこそ特徴づけられるものだと言い切るその音響は、余計な要素をそぎ落とし、弾き手の指との完全なシンクロを目指しているかのような、厳しささえ感じさせる素晴らしいものとなっています。またジュリアン・ブリーム愛用のギターブランドとしても有名。この楽器製作のフィールドにおいても新たな才能を発掘することに慧眼を発揮した稀代の名手が、1980年代後半に製作されたアラムのギターを2本(1986年に“La Cancion”、1988年に“Myrtle”)、コンサートやレコーディングで使用したことはギターファンの間でよく知られています。〔楽器情報〕ケヴィン・アラム製作 2025年製 ‛JUDEE’ジュリアン・ブリームモデル Used、ほぼ未使用で新品同様の超美品が入荷致しました。常にトーレスをその基礎としてあくまでも伝統的なスタイルを標榜してきたこの英国屈指の名工の、現在の到達点を示す傑作です。表面板の力木構造は彼が近作において採用しているというJeffrey Elliot 考案の設計に準拠しつつ、一部に彼自身の工夫を加えたもの。サウンドホール上側(ネック側)に2本、下側(ブリッジ側)に1本のハーモニックバーを設置。このうちサウンドホール上下に接している2本のバーは高音側と低音側にそれぞれ高さ4mm、長さ4㎝ほどの開口部が設けられており、後述する力木の何本かがこれらの開口部を通過するようにして設置されています。まず通常の扇状力木は左右対称7本が設置されており、このうちいちばん高音側と低音側のそれぞれ2本ずつがホール下側バーの開口部を通過して数センチのところまで延伸しており、これらの先端近くからやはりそれぞれ2本ずつの別の力木が連結するようにして(実際にはほんの数ミリ離れています)平行に設置されており、ホール上側のバーの開口部をくぐり抜けて数センチのところで止まっています。扇状力木7本はその下端をボトム部ぎりぎりのところまで伸ばしており、クロージングバーやブリッジ部分の補強プレートはありません。この構造はホセ・ルイス・ロマニリョスの代表的な力木構造(彼の「Making a Spanish Guitar」の中ではPlan1として紹介されているもの)の特徴、さらに言えばヘルマン・ハウザー1世が1929年に「試作」したギターにおいて採用していた力木配置を想起させるものであり、特にハーモニックバーに設けられた開口部をサウンドホール両脇に平行に配された各2本の力木が通過している構造に特徴的なものですが、これらの先達の作においてはこの平行2本の力木は3本のバーの開口部を抜けて上端はネック脇の横板にまで到達しているものの、アラムの本作ではホールすぐ上のバーの開口部を抜けてすぐのところまでで止まっており、一番ネックに近いところのバーには開口部も設けられておりません。またこのホール両脇の平行2本(計4本)の力木はロマニリョスとハウザーの設計では表面板の木目と完全に同じ方向に(つまりハーモニックバーと垂直に交差して)設置されていますが、本作では扇状力木の延長線上をほぼなぞるようにして設置されています。レゾナンスはF#~Gの間に設定されています。上記の構造によりアラムがここで達成しているのは文字通りハウザー/ロマニリョス的音響の再解釈と自身の音響美学との融合と言えます。低音から高音に至るまでの一つの整った線を紡いでゆくような各弦間の見事なバランス、発音とその音像も均質で、しかもそれぞれの音と音は互いに有機的な相対性を形成し、どの音とどの音とを組み合わせても互いのアイデンティティを明確にしながら調和する、そのあくまでも音楽的な佇まいが素晴らしい。これは和音においてはクリアなひとつのまとまりとして、多声音楽ではまるで室内楽のような立体的かつ融合性の高い音響をつくりだします。また撥弦の弾性感を活かした歌う(震える)ような発音はロマニリョスのギターを思わせますが、ここでアラムはロマニリョスの特性をさらに洗練させ、撥弦の運動感を慎ましく残しながら楽音としての充実を図っています。これらがオイルフィニッシュの特性である木質の柔らかく凛とした音の肌理で統一され、古雅でかつ清新な、まさにクラシカルな音響として着地しているのはほとんど感動的ですらあり、モダンギターの潮流とは完全に無縁の、クラシックギターにおける理想の追求が極めて純粋な形で具現化した一本。傷はなく、ほぼ未使用、新品同様の美品です。アラムらしい良質な材がセレクトされ、隅々まで精緻な細工が行き渡った造作、全体の凛とした佇まいが美しい。ボディのライニング(縁取り)や裏板のセンターに配されたバーズアイメイプルとインディアンローズウッドとの対比、ハウザーを基本としたロゼッタデザイン、オイルフィニッシュによる木の触感なども相変らず見事な仕上がり。ネックは厳密にはほんのわずかに順反りですが標準設定の範囲内。ネック形状は普通の厚みのDシェイプ。弦高値は3.2/4.2mm(1弦/6弦 12フレット)でサドル余剰は1.0~1.5mmあります。糸巻はこのブランドの標準仕様となっている高級ブランドRodgers製が装着されています。重量は1.34㎏。
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ネック:セドロ
指 板:エボニー
塗 装:オイルフィニッシュ
糸 巻:ロジャース
弦 高:1弦 3.2mm /6弦 4.2mm
〔製作家情報〕
ケヴィン・アラム Kevin Aram 1949年イギリス生まれ。もともとギターの修理や復元の職人としてスタートし、M.ラミレス、D.エステソ、ハウザー1世からアルカンヘル・フェルナンデス、J.L.ロマニリョスまでに至る銘器の数々の構造を実際に検分する機会を得たことが、後の彼の製作美学に大きく影響したことは推測してあまりあるところでしょう。1991年に現在のイギリス、ノース・デヴォンに工房を移してからは、トーレスとハウザーモデルに限定して製作。当初はセラック塗装での仕上げでしたが後にクラシックの高級モデルでは珍しいオイルフィニッシュ仕様に変更(彼はこの塗装をすべて手で行っています)、木材の質感をなまなましく感じさせるとともに、薄い塗装ならではの木質感あふれる柔らかく自然な力強さを備えた響きが特徴のギターとなっています。また現在はJeffrey Elliot 考案による力木配置も採用しており、これは彼がそのキャリア初期において最も影響を受けたというロマニリョス的な設計を想起させるものとなっています。華美とは無縁の音色ながら、自らのギターはその音楽的表現力においてこそ特徴づけられるものだと言い切るその音響は、余計な要素をそぎ落とし、弾き手の指との完全なシンクロを目指しているかのような、厳しささえ感じさせる素晴らしいものとなっています。
またジュリアン・ブリーム愛用のギターブランドとしても有名。この楽器製作のフィールドにおいても新たな才能を発掘することに慧眼を発揮した稀代の名手が、1980年代後半に製作されたアラムのギターを2本(1986年に“La Cancion”、1988年に“Myrtle”)、コンサートやレコーディングで使用したことはギターファンの間でよく知られています。
〔楽器情報〕
ケヴィン・アラム製作 2025年製 ‛JUDEE’ジュリアン・ブリームモデル Used、ほぼ未使用で新品同様の超美品が入荷致しました。常にトーレスをその基礎としてあくまでも伝統的なスタイルを標榜してきたこの英国屈指の名工の、現在の到達点を示す傑作です。
表面板の力木構造は彼が近作において採用しているというJeffrey Elliot 考案の設計に準拠しつつ、一部に彼自身の工夫を加えたもの。サウンドホール上側(ネック側)に2本、下側(ブリッジ側)に1本のハーモニックバーを設置。このうちサウンドホール上下に接している2本のバーは高音側と低音側にそれぞれ高さ4mm、長さ4㎝ほどの開口部が設けられており、後述する力木の何本かがこれらの開口部を通過するようにして設置されています。まず通常の扇状力木は左右対称7本が設置されており、このうちいちばん高音側と低音側のそれぞれ2本ずつがホール下側バーの開口部を通過して数センチのところまで延伸しており、これらの先端近くからやはりそれぞれ2本ずつの別の力木が連結するようにして(実際にはほんの数ミリ離れています)平行に設置されており、ホール上側のバーの開口部をくぐり抜けて数センチのところで止まっています。扇状力木7本はその下端をボトム部ぎりぎりのところまで伸ばしており、クロージングバーやブリッジ部分の補強プレートはありません。この構造はホセ・ルイス・ロマニリョスの代表的な力木構造(彼の「Making a Spanish Guitar」の中ではPlan1として紹介されているもの)の特徴、さらに言えばヘルマン・ハウザー1世が1929年に「試作」したギターにおいて採用していた力木配置を想起させるものであり、特にハーモニックバーに設けられた開口部をサウンドホール両脇に平行に配された各2本の力木が通過している構造に特徴的なものですが、これらの先達の作においてはこの平行2本の力木は3本のバーの開口部を抜けて上端はネック脇の横板にまで到達しているものの、アラムの本作ではホールすぐ上のバーの開口部を抜けてすぐのところまでで止まっており、一番ネックに近いところのバーには開口部も設けられておりません。またこのホール両脇の平行2本(計4本)の力木はロマニリョスとハウザーの設計では表面板の木目と完全に同じ方向に(つまりハーモニックバーと垂直に交差して)設置されていますが、本作では扇状力木の延長線上をほぼなぞるようにして設置されています。レゾナンスはF#~Gの間に設定されています。
上記の構造によりアラムがここで達成しているのは文字通りハウザー/ロマニリョス的音響の再解釈と自身の音響美学との融合と言えます。低音から高音に至るまでの一つの整った線を紡いでゆくような各弦間の見事なバランス、発音とその音像も均質で、しかもそれぞれの音と音は互いに有機的な相対性を形成し、どの音とどの音とを組み合わせても互いのアイデンティティを明確にしながら調和する、そのあくまでも音楽的な佇まいが素晴らしい。これは和音においてはクリアなひとつのまとまりとして、多声音楽ではまるで室内楽のような立体的かつ融合性の高い音響をつくりだします。また撥弦の弾性感を活かした歌う(震える)ような発音はロマニリョスのギターを思わせますが、ここでアラムはロマニリョスの特性をさらに洗練させ、撥弦の運動感を慎ましく残しながら楽音としての充実を図っています。これらがオイルフィニッシュの特性である木質の柔らかく凛とした音の肌理で統一され、古雅でかつ清新な、まさにクラシカルな音響として着地しているのはほとんど感動的ですらあり、モダンギターの潮流とは完全に無縁の、クラシックギターにおける理想の追求が極めて純粋な形で具現化した一本。
傷はなく、ほぼ未使用、新品同様の美品です。アラムらしい良質な材がセレクトされ、隅々まで精緻な細工が行き渡った造作、全体の凛とした佇まいが美しい。ボディのライニング(縁取り)や裏板のセンターに配されたバーズアイメイプルとインディアンローズウッドとの対比、ハウザーを基本としたロゼッタデザイン、オイルフィニッシュによる木の触感なども相変らず見事な仕上がり。ネックは厳密にはほんのわずかに順反りですが標準設定の範囲内。ネック形状は普通の厚みのDシェイプ。弦高値は3.2/4.2mm(1弦/6弦 12フレット)でサドル余剰は1.0~1.5mmあります。糸巻はこのブランドの標準仕様となっている高級ブランドRodgers製が装着されています。重量は1.34㎏。