ネック:マホガニー指 板:エボニー塗 装:ラッカー糸 巻:ロジャース弦 高:1弦 2.5mm/6弦 3.6mm[製作家情報] エリック・サーリン Eric Sahlin 1956年 アメリカ、ワシントン州スポケーンに生まれる。幼い頃から木工と同時にクラシックギターに強い関心を持っていた彼は、その二つの方向性をともに探求するかのようにワシントン大学で美術や彫刻を学び、カリフォルニア大学で音響学と物理学を学んでいます。そして在学中に製作マニュアル本を買い漁って独学で最初の一本となるギターを1975年に完成させます。大学卒業後の1977年には家具と楽器工房を立ち上げますが、数年後にはギター製作のみとなり、この時期より彼のギターは広く流通し始めます。1980年代初頭にはリュート奏者の友人の勧めでにリュート製作、そしてアコースティックギターの製作にも着手しましたが、1984年以降はクラシック/フラメンコギターのみの製作となり現在もスポケーンの工房で精力的に製作を行っています。1980年代後半には彼の名声は確立され、現代アメリカを代表するクラシックギター製作家の一人とされています。その精緻を極めた木工技術と高級家具のような美しい仕上がり、あくまでプレイヤーの視点に立って追究された演奏性の高さとその独特の発想などにより、多くのプロギタリストにより愛用されています。スコット・テナント、アンドリュー・ヨークらロサンゼルスギターカルテットのメンバーによって使用されたことでも特に有名なブランド。〔楽器情報〕エリック・サーリン 2005年製 No.268 Usedの入荷です。この米国屈指のクラシックギターブランドの、そのキャリアのほぼ中間地点で作られたもので、彼の製作美学と音響哲学、そして造作精度とが極めて高次での融合と完成とに達しており、製作から20年を経た(北米だけでもその後少なからず新たな才能による流れの変化があったあとでさえ)現在も、そのあまりにも妥協のない清新な音響によって際立つ魅力を放つ一本となっています。撥弦における硬質な弾性感(絶妙なしなやかさ)とともに精製されきったような艶やかな音像が立ち現れます。すべての音が一つの位相の中に完璧なバランスで収まっており、濁りがなく、密度が一定していて、しかも実に表情豊かに響く。これはあえて強引に言えばヘルマン・ハウザーのアメリカ的解釈ともいえるもので、ハウザーの場合はスペイン的叙情をピアニスティックな音響設計の中に収束させる試みですが、サーリンはハウザーのその汎クラシカルな響きを、あくまでもギターという楽器の特性のほうに引き寄せ、しかしながらこの楽器が必然的にまとってしまった民族性や歴史性なども排除した純粋に機能的な楽器として着地させています。上述した各音の比類のないクリアネスが特筆されますが、和音における構成音一つ一つの明確なアイデンティティ、ポリフォニックな音楽での各声部の線の形成などにその機能性が発揮され、誠にすがすがしい音響が醸成されていきます。細かな表現の点でも、音色の繊細な変化、音量のダイナミズム(ppp から fffまで形が崩れない)、楽曲の要求に十全に応え得る身振りの鋭敏さも申し分ありません。そして彼の楽器がいわばモダンギターと一線を画すのは、こうしたバランスフルな音響がオートマティックに成立するのではなく、むしろ奏者のタッチに対しあまりの高いリニアニティを発揮していることにあります。発音はまるでタッチの指先に吸い付くかのようにヴィヴィッドで、その擦過の瞬間をあまりの解像度の高さで音像に具現化するので、奏者はタッチのしかるべき熟練が求められます。この妥協のなさはよもすれば無機質な、機械的な音響に陥ってしまいそうなところ、これこそがサーリンの優れたところとも言えますが、氏の類まれな感性によって充実した表現楽器となっているところが素晴らしい。表面板力木配置は極めてオーソドックスなもので、サウンドホール上下(ネック側とブリッジ側)に1本ずつのハーモニックバー、同じくホール左右(高音側と低音側)に一枚ずつの補強プレート、扇状力木は左右対称7本、これらの先端をボトム部で受け止めるようにV字型に配置された二本のクロージングバー、駒板位置にはほぼ同じ面積の補強プレートが貼られているという全体の配置で、やはりハウザー的設計を想起させるものとなっています。7本の扇状力木は幅3mm×高さは一番高いところで3mmほどの繊細な造りで、中央部が高く両端部分は低くなっているのですが、その両端部分はほとんど表面板と同化してゆくように薄く、極めて精緻な細工が施されています。レゾナンスはGの少し上に設定されています。割れや改造などの大きな修理履歴はありません。表面板は指板両脇からサウンドホール周り、駒板下部分など弾きキズや弦交換時のキズがあり、ボトム付近には打痕が数か所ありますがそれぞれ軽微なもので外観を損ねるほどではありません。横裏板は衣類等によるわずかな摩擦あとのみ、ネック裏もほとんどキズはなく全体に経年を考慮するときれいな状態と言えます。ネックはこのブランドの機能的特徴として有名なひねられた形状(高音側と低音側とでボディへの差し込み角度を変える)をしており、これは演奏時に左手の手首の状態を最も無理のない姿勢に保つために工夫されたもので、設定には非常に高い技術を要するもの。ネックの形状はラウンド型の薄めのDシェイプで握り自体もコンパクトなものになっています。ネック、フレット、糸巻き等演奏性に関わる部分も良好です。弦高値は2.5/3.6mm(1弦/6弦 12フレット)、サドル余剰は0.5~1.0mmとなっています。
下の写真をクリックすると拡大して表示します
ネック:マホガニー
指 板:エボニー
塗 装:ラッカー
糸 巻:ロジャース
弦 高:1弦 2.5mm/6弦 3.6mm
[製作家情報]
エリック・サーリン Eric Sahlin 1956年 アメリカ、ワシントン州スポケーンに生まれる。
幼い頃から木工と同時にクラシックギターに強い関心を持っていた彼は、その二つの方向性をともに探求するかのようにワシントン大学で美術や彫刻を学び、カリフォルニア大学で音響学と物理学を学んでいます。そして在学中に製作マニュアル本を買い漁って独学で最初の一本となるギターを1975年に完成させます。大学卒業後の1977年には家具と楽器工房を立ち上げますが、数年後にはギター製作のみとなり、この時期より彼のギターは広く流通し始めます。1980年代初頭にはリュート奏者の友人の勧めでにリュート製作、そしてアコースティックギターの製作にも着手しましたが、1984年以降はクラシック/フラメンコギターのみの製作となり現在もスポケーンの工房で精力的に製作を行っています。
1980年代後半には彼の名声は確立され、現代アメリカを代表するクラシックギター製作家の一人とされています。その精緻を極めた木工技術と高級家具のような美しい仕上がり、あくまでプレイヤーの視点に立って追究された演奏性の高さとその独特の発想などにより、多くのプロギタリストにより愛用されています。スコット・テナント、アンドリュー・ヨークらロサンゼルスギターカルテットのメンバーによって使用されたことでも特に有名なブランド。
〔楽器情報〕
エリック・サーリン 2005年製 No.268 Usedの入荷です。この米国屈指のクラシックギターブランドの、そのキャリアのほぼ中間地点で作られたもので、彼の製作美学と音響哲学、そして造作精度とが極めて高次での融合と完成とに達しており、製作から20年を経た(北米だけでもその後少なからず新たな才能による流れの変化があったあとでさえ)現在も、そのあまりにも妥協のない清新な音響によって際立つ魅力を放つ一本となっています。
撥弦における硬質な弾性感(絶妙なしなやかさ)とともに精製されきったような艶やかな音像が立ち現れます。すべての音が一つの位相の中に完璧なバランスで収まっており、濁りがなく、密度が一定していて、しかも実に表情豊かに響く。これはあえて強引に言えばヘルマン・ハウザーのアメリカ的解釈ともいえるもので、ハウザーの場合はスペイン的叙情をピアニスティックな音響設計の中に収束させる試みですが、サーリンはハウザーのその汎クラシカルな響きを、あくまでもギターという楽器の特性のほうに引き寄せ、しかしながらこの楽器が必然的にまとってしまった民族性や歴史性なども排除した純粋に機能的な楽器として着地させています。
上述した各音の比類のないクリアネスが特筆されますが、和音における構成音一つ一つの明確なアイデンティティ、ポリフォニックな音楽での各声部の線の形成などにその機能性が発揮され、誠にすがすがしい音響が醸成されていきます。細かな表現の点でも、音色の繊細な変化、音量のダイナミズム(ppp から fffまで形が崩れない)、楽曲の要求に十全に応え得る身振りの鋭敏さも申し分ありません。そして彼の楽器がいわばモダンギターと一線を画すのは、こうしたバランスフルな音響がオートマティックに成立するのではなく、むしろ奏者のタッチに対しあまりの高いリニアニティを発揮していることにあります。発音はまるでタッチの指先に吸い付くかのようにヴィヴィッドで、その擦過の瞬間をあまりの解像度の高さで音像に具現化するので、奏者はタッチのしかるべき熟練が求められます。この妥協のなさはよもすれば無機質な、機械的な音響に陥ってしまいそうなところ、これこそがサーリンの優れたところとも言えますが、氏の類まれな感性によって充実した表現楽器となっているところが素晴らしい。
表面板力木配置は極めてオーソドックスなもので、サウンドホール上下(ネック側とブリッジ側)に1本ずつのハーモニックバー、同じくホール左右(高音側と低音側)に一枚ずつの補強プレート、扇状力木は左右対称7本、これらの先端をボトム部で受け止めるようにV字型に配置された二本のクロージングバー、駒板位置にはほぼ同じ面積の補強プレートが貼られているという全体の配置で、やはりハウザー的設計を想起させるものとなっています。7本の扇状力木は幅3mm×高さは一番高いところで3mmほどの繊細な造りで、中央部が高く両端部分は低くなっているのですが、その両端部分はほとんど表面板と同化してゆくように薄く、極めて精緻な細工が施されています。レゾナンスはGの少し上に設定されています。
割れや改造などの大きな修理履歴はありません。表面板は指板両脇からサウンドホール周り、駒板下部分など弾きキズや弦交換時のキズがあり、ボトム付近には打痕が数か所ありますがそれぞれ軽微なもので外観を損ねるほどではありません。横裏板は衣類等によるわずかな摩擦あとのみ、ネック裏もほとんどキズはなく全体に経年を考慮するときれいな状態と言えます。ネックはこのブランドの機能的特徴として有名なひねられた形状(高音側と低音側とでボディへの差し込み角度を変える)をしており、これは演奏時に左手の手首の状態を最も無理のない姿勢に保つために工夫されたもので、設定には非常に高い技術を要するもの。ネックの形状はラウンド型の薄めのDシェイプで握り自体もコンパクトなものになっています。ネック、フレット、糸巻き等演奏性に関わる部分も良好です。弦高値は2.5/3.6mm(1弦/6弦 12フレット)、サドル余剰は0.5~1.0mmとなっています。