Alan Carruth から学んだ音響工学的アプローチ、Dennis Koster を通じて深めていったスペイン伝統の名器の実践的な研究、そして自身も演奏を学ぶことで得た演奏性と音楽表現との関係性への考察などを土台にして作られる彼のギターは、改革的な構造を生み出すことへの十分過ぎるほどのポテンシャルを有しながら、敢えて伝統のなかに自ら身を置くことの意義を悠然と示すような強さ、大きさ、速さがあり、実に潔く清々しいものとなっています。とかく音響工学を専門的に学んだ作り手がしばしば工学的アプローチに偏り過ぎるきらいがあるなかで、彼の全き伝統性は稀有なスタンスと言えるでしょう。しかしながら同時に改革は伝統の最前線であることの意味も理解しており、実際にモダンスタイルとスペインの伝統工法をミックスさせることで機能性と表現力を高度に両立させたモデルも製作するなど、未来に向けての鋭敏な感性も同時に併せもっていることも特徴としてあげておくべきでしょう。
ネック:セドロ
指 板:エボニー
塗 装:表板 セラック
:横裏板 セラック
糸 巻:スローン
弦 高:1弦 2.9mm / 6弦 3.5mm
[製作家情報]
アーロン・グリーン Aaron Green アメリカ、マサチューセッツ州グロトンに工房を構える製作家。1991年16歳の時、通っていた高校の休暇中のイベントとして開催されていたフォークフェスティヴァルで製作家のAlan Carruth と出会い、その場で弟子入りします。何の知識もバックグラウンドも持たない青年がただ情熱の赴くままにこの世界に入ってくることになるこのエピソードは、斯界きっての理論派でありギターにおけるアメリカの音響学派の第一人者である Carruth の人柄によることも大きかったのでしょう。実際に入場料さえ支払う能力もないままフェス期間中彼のブースに入り浸ったアーロンは、何よりもCarruth の楽器と音に対する献身と人間的な度量の広さに惹かれて、最終日におそるおそる弟子入りを志願するとCarruth は即答で彼を受け入れ、以後3年間の充実した修業期間に入ります。最初はアコースティックやエレキの製作の道を漠然と考えていた彼は、やがて自身の嗜好と方向性はクラシックとフラメンコと認識するに至ります(そのきっかけの一つとなったのがあるギタリストの演奏したバッハだったそう)。
1994年にはマサチューセッツのウォルサムに最初の工房を開き、手探りながら製作を続けてゆくなかで1995年にギタリストのDennis Koster(アーロンによればDennis は伝統的なスパニッシュギターに関する非常な知識と見識を有した碩学であり、優秀なギタリストたちとの関係を繋いでくれる友人であり、クラシックギターというジャンルにおける素晴らしいメンターであったそう)と出会い、このジャンルの伝統と本質に向けての探求を一気に深めてゆきます。
Alan Carruth から学んだ音響工学的アプローチ、Dennis Koster を通じて深めていったスペイン伝統の名器の実践的な研究、そして自身も演奏を学ぶことで得た演奏性と音楽表現との関係性への考察などを土台にして作られる彼のギターは、改革的な構造を生み出すことへの十分過ぎるほどのポテンシャルを有しながら、敢えて伝統のなかに自ら身を置くことの意義を悠然と示すような強さ、大きさ、速さがあり、実に潔く清々しいものとなっています。とかく音響工学を専門的に学んだ作り手がしばしば工学的アプローチに偏り過ぎるきらいがあるなかで、彼の全き伝統性は稀有なスタンスと言えるでしょう。しかしながら同時に改革は伝統の最前線であることの意味も理解しており、実際にモダンスタイルとスペインの伝統工法をミックスさせることで機能性と表現力を高度に両立させたモデルも製作するなど、未来に向けての鋭敏な感性も同時に併せもっていることも特徴としてあげておくべきでしょう。
現在のラインナップは全てクラシックとフラメンコで統一しており、上記のようなモダンスタイルも含みながら、ほとんどは完全なスペイン伝統工法で作られています。非常に高い工作精度を有しており、大胆さと抑制のぎりぎりのところを見極める確かな審美性によって絶妙に配された意匠は楽器に優美な気品を与えています。ビジュアルだけでなくあくまでもトーンウッドとしての性質の高さに主眼を置いた木材選びで、実際彼がいわゆる「音響学派」的なアプローチを特徴とするブランドと一線を画しているのは、あるべき音へのイマジネーションをフル稼働させながら、彼が自身の眼と耳と手による極めて生物的な触覚をもとにしてそこへと着地させようとする、その類まれな音の感性と言えます(彼自身の秀逸な公式ウェブサイトでは組み立て前の裏板に耳を澄ますように近づけながらをタッピングをする印象的な写真がイメージの一つとして使用されており、彼のそうした姿勢を端的に表したヴィジュアルとなっています)。現代アメリカの中でも静かに光芒を放つ、瞠目すべきブランドの一つです。
また現在彼は主にスペインの名品を中心に積極的なリストアと次の世代への受け渡しとなる収集と修理を行っており、この愛すべき伝統主義者の注目すべき活動として認識されています。
[楽器情報]
アーロン・グリーン製作 クラシックモデル 2005年製 No.77 国内では非常に珍しいUsedの入荷です。「完全な伝統主義者」と自らを規定するだけに外観、構造そして音響に至るまでがスペインの伝統的なスタイルを基本として構築されており、このブランドの製作哲学と高度の工作精度、そして深い審美性が十全に自然に備わった一本で、とても魅力的なモデルとなっています。
撥弦の弾性が表面板を叩くような感覚のパーカッシブな発音、それと同時に響箱の容積を感じさせる空間性が生まれてくるような音響性質はすぐれてスペイン的ですが、決して放射するに任せるような鳴りではなく、適度な粘りを加えて全体をバランスよく構築しています。このような「古風さ」をまといながら、発される艶を湛えたみずみずしい音像はいかにも新鮮で、加えて「現代的」ともいえるほどの音量的なレンジの広さと迫力(ただし決して大音量の楽器という意味ではなく)をもっています。さらに特筆すべきは各音の彫りの深さで、単旋律においても音と音との線的な繋がりと同時に深度のある立体的な空間を生み出してゆき、そのごつごつとした音同士の凹凸感は独特な感触がありとても面白いのですが、決してクラシカルな雰囲気や表情を逸脱することなく、むしろそれにふさわしく、自然に感じられるのはやはりそこに深い歌が常に表出されるからでしょう。
音色もまたスペイン的な明るさがありますが、そのなかにほのかに奥ゆかしさも感じさせ、これがどこかアンビバレントな相貌を自然にまとわせているところも魅力となっており、やはりクラシカルな明と暗の表現に適応してゆきます。また両手共にタッチに対する鋭敏な反応性も申し分なく、木にじかに触れるような生々しさがあり、しかし十全にコントロールされているところなどもクラシカルな表現にふさわしい。アメリカという国においてここまでクラシカルな、いわばヨーロッパ性に深く入り込み、自身の作家性と無理なく融合してしまった製作家はかなり稀有な例と言えます。
表面板の力木配置は、サウンドホール上下(ネック側とブリッジ側)に1本ずつのハーモニックバーを設置、ホール左右には1本ずつの短い力木が2本のハーモニックバーの間を繋ぐようにして近接する横板のカーブに沿って設置、ネック脚両側にとサウンドホール周りには薄い補強板が貼られています。扇状力木は左右対称7本、これらの下端をボトム部で受け止めるように逆ハの字型に配置された2本のクロージングバー、そして駒板の位置にはほぼ同じ面積をカバーするように非常に薄い補強板が貼られているという極めてオーソドックスな力木配置となっています。レゾナンスはGの下、ほぼF#~Gの中間に近い位置に設定されています。
外観も魅力的、飴色に近いようなイエロー味のある良質な松材とそれと対照を為す横裏板の濃茶のブラジリアンローズウッドがまずは眼に鮮やか。ロゼッタはどっか古代文様的な意匠を緻密にそして色を抑えてあしらい静かな存在感があり、ブラジリアンローズの野性味をきりっと引き締めるようなおそらくはメイプルのパーフリングインレイもまたなんとも良いアクセントとなっており、洒脱で、同時にハッとさせるような鋭さもある佇まいは秀逸です。
状態も良好です。割れや改造などの大きな修理履歴はありません。全体は繊細なセラック塗装仕上げで、表面板のサウンドホール周りや下部低音側のふくらみ部などに軽微なスクラッチあとなどありますが外観を損ねるものではありません。横裏板も衣服等によるわずかな摩擦のあとがあるのみできれいな状態です。ネックは厳密に言えばやや順反りですが演奏性には問題なく標準設定の範囲内、フレットは適正値を維持しています。ネック形状は薄くそして角の取れた丸みのあるDシェイプ、弦高値は2.9/3.5mm(1弦/6弦 12フレット、サドル余剰0.5~1.0mm)。糸巻はスローン製のLeaf 柄プレート。ボディ重量は1.54㎏。