ネック:セドロ指 板:エボニー塗 装:表板/セラック :横裏板/セラック糸 巻:ロジャース弦 高:1弦 3.1mm :6弦 4.0mm[製作家情報]テサーノス・ペレス M.Tezanos Perez、スペイン、マドリッドのブランド。マリアーノ・テサーノス・カストロ Mariano Tezanos Castro(1949~)とテオドロ・グレゴリオ・ペレス・マリブランカ Teodoro Gregorio Perez Mariblanca(1952~)の二人による共作です。マリアーノの父 マリアーノ・テサーノス・マルティン(1915~1982)は1960年代のホセ・ラミレス黄金期に「MT」のスタンプで製作していた同工房の最重要職人であり、アンドレス・セゴビアが彼のラミレスを愛用し、ナルシソ・イエペスの最初の10弦ギターを製作したことでも知られています。当時職工長であったパウリーノ・ベルナベとともにラミレス3世の世界的なブランドバリューを完全に確立した名工として、現在に至るまで最もラミレス的なエッセンスを体現した職人としての評価は揺るがず、手練れの職人揃いのこのブランドの中でも取り分け人気の高いスタンプになっています。息子のテサーノス・カストロは父の姿を見て早くから製作に興味を持ち、1963年には父のいたラミレス3世の工房で徒弟として働き始めます。じきに熟練工となり「MTC」のスタンプを与えられると、当時の爆発的な需要に応じるように極めて精力的に製作を行っています。1984年にラミレス工房を辞したのち、同じくラミレス工房出身のアルトゥーロ・サンサーノ・モレーノとMoreno y Castro として共同ブランドを起ち上げますが、これはわずか3年ほどで袂を分かつことになります。その後独立した期間を経て1992年、やはりラミレス工房の熟練職人であったテオドロ・ペレスと共同ブランド M.Tezanos Perez を起ち上げるに至ります。テオドロ・ペレスは1966年にラミレス3世の工房に入り、ベルナベとテサーノス・マルティンの指導を仰ぎながら徒弟として働き始めます。3年後の1969年に最初の1本(フラメンコモデル)を作り上げたあと程なくして熟練工としてGPMのスタンプを与えられており、テサーノス・ペレスブランドを起ち上げる1992年まで26年間ラミレス工房で非常に精力的な製作(1400本のギターを出荷したと言われています)を行っています。テサーノス・ペレスはこのようにラミレス最盛期を支えた職人として腕を磨ききった二人による、互いの技術と個性が円満に融合した理想的な共同作業との評価が高まり、1990年代以降のマドリッド派の主要ブランドとして人気を博すことになります。マリアーノの重厚さ、ペレスの柔和で類まれなバランス感覚とが自然に調和し、さらにスペイン的な音楽的表現力の豊かさも備えた二人のギターは現在もマーケットでは人気のアイテムとなっています。ブランドを起ち上げてから2000年代後半に二人がそれぞれ独立するまで、月に3本のペースで順調に良作を出荷し続けます。その後それぞれが自身の名を冠したラベルで製作を継続していましたが、マリアーノは腕の故障を機に2010年代に入ったころには製作を引退、テオドロ・ペレスは現在も良質なギターをコンスタントに出荷しており、着実にマドリッド派の重鎮としての地歩を固めています。[楽器情報]テサーノス・ペレス 1998年製 Maestro モデル No.221 Used です。ラミレス系マドリッド派特有の音響設計ですが、ラミレスのように高音を前景化させて歌を強調させることも、パウリーノ・ベルナベのようにすべての音が等しく強烈に主張してくるようなこともなく、低音から高音までの自然なバランスを構築しながらその中で濃密にロマンティックな音色を聴かせるテサーノス・ペレスならではの至芸が味わえる一本です。そしてこの表情の豊かさはここぞというときには情感をたっぷりと振り切るところまで表出しながら、あくまでも上品さを失わないところも素晴らしい。さらに特筆すべきは彼らのギターの非常な演奏性と機能性の高さで、マドリッド派らしいたっぷりとした響きですがタッチに対する反応が鋭敏で発音ではぱっと音像が表れ、終止においてはさっと止まる、その音楽的な身振りが心地良く、奏者はタッチのままに音が動いてゆく感覚で演奏できます。このような発音の連なりは旋律に自然なドライブ感を生み、音楽がどんどん躍動してゆく感覚もまたこのブランドならではでしょう。表面板力木配置は、サウンドホール上下(ネック側とブリッジ側)に1本ずつのハーモニックバーを設置、このうち下側のバーの低音側には長さ4センチ高さ3mmほどの開口部が設けられています。力木は扇状形の配置ではなく、表面板の木目と同じ方向に互いに平行にして設置された4本(5本)と、下側ハーモニックバーの中央から高音側横板に向かって斜めに下がってゆくように設置された1本、そしてボトム部分に逆ハの字型に配置された2本のクロージングバーという配置になっています。そして駒板の位置にはほぼ同じ面積をカバーするように薄い補強板が貼ってあるという全体の設計。まず平行に配置された4本(5本)の力木は表面板センターに配された一本を境に高音側に1本、低音側に2本が設置されており、センターと高音側の合わせて2本は駒板位置のプレートの上を通過してボトム部に至っていますが、センターの低音側隣の1本はプレートの上下で分かれています(※そのためセパレートされたそれぞれを1本とすると、平行力木は5本となります)。また斜めに配置された1本は本来ならトレブルバーとして「バー」の1本とされるところですが、本作のこれはバーの強固な造りではなく平行力木と同じサイズと形状をしていることから力木の一つとしています。レゾナンスはF#~Gの間に設定されています。表面板、横裏板ともに経年数を考慮するとキズや打痕等は細かく浅いものがほとんどで、表面板指板脇などはやや多く見られるもののいずれも外観を著しく損なうものではありませんが、割れの修理歴はおもに表面板に集中して数か所あります。指板脇のほぼ横板に近い部分の高音側低音側に1か所ずつ、下部低音側ふくらみ部分に1ヵ所、駒板低音側縁近くに1ヵ所(駒板の上下にまたがって割れが生じています)、同じく駒板高音側脇の部分にくびれ部からボトムにかけての長い範囲で1ヵ所、ボトムのエンドブロック両脇部分に1ヵ所ずつ、それぞれ内部からパッチ補強処理(一部接着のみの処理)がなされています。裏板は下部低音側に1ヵ所の割れ補修あと(接着のみ)があります。ネックは良好な状態を維持しており、フレットもほんのわずかに摩耗がみられる程度で演奏性には全く問題のないレベルです。ネック形状はかなり薄めのDシェイプでコンパクトなグリップ感、弦高値は3.1/4.0mm(1弦/6弦 12フレット)でサドル余剰は1.0~2.0mmとなっています。おそらく出荷時の標準設定のままかと思われますが、ネックの差し込み角や上述のネック形状等の効果からか左手のストレスをあまり感じさせない設定になっており、実際の弦高値よりも体感的には押弦しやすく感じます。糸巻はカナダの高級ブランドRodgersのものにかなり以前に交換されており、現在も機能的に問題はありませんがプレートの端がわずかに木部からはみ出ています。
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ネック:セドロ
指 板:エボニー
塗 装:表板/セラック
:横裏板/セラック
糸 巻:ロジャース
弦 高:1弦 3.1mm
:6弦 4.0mm
[製作家情報]
テサーノス・ペレス M.Tezanos Perez、スペイン、マドリッドのブランド。マリアーノ・テサーノス・カストロ Mariano Tezanos Castro(1949~)とテオドロ・グレゴリオ・ペレス・マリブランカ Teodoro Gregorio Perez Mariblanca(1952~)の二人による共作です。
マリアーノの父 マリアーノ・テサーノス・マルティン(1915~1982)は1960年代のホセ・ラミレス黄金期に「MT」のスタンプで製作していた同工房の最重要職人であり、アンドレス・セゴビアが彼のラミレスを愛用し、ナルシソ・イエペスの最初の10弦ギターを製作したことでも知られています。当時職工長であったパウリーノ・ベルナベとともにラミレス3世の世界的なブランドバリューを完全に確立した名工として、現在に至るまで最もラミレス的なエッセンスを体現した職人としての評価は揺るがず、手練れの職人揃いのこのブランドの中でも取り分け人気の高いスタンプになっています。息子のテサーノス・カストロは父の姿を見て早くから製作に興味を持ち、1963年には父のいたラミレス3世の工房で徒弟として働き始めます。じきに熟練工となり「MTC」のスタンプを与えられると、当時の爆発的な需要に応じるように極めて精力的に製作を行っています。1984年にラミレス工房を辞したのち、同じくラミレス工房出身のアルトゥーロ・サンサーノ・モレーノとMoreno y Castro として共同ブランドを起ち上げますが、これはわずか3年ほどで袂を分かつことになります。その後独立した期間を経て1992年、やはりラミレス工房の熟練職人であったテオドロ・ペレスと共同ブランド M.Tezanos Perez を起ち上げるに至ります。
テオドロ・ペレスは1966年にラミレス3世の工房に入り、ベルナベとテサーノス・マルティンの指導を仰ぎながら徒弟として働き始めます。3年後の1969年に最初の1本(フラメンコモデル)を作り上げたあと程なくして熟練工としてGPMのスタンプを与えられており、テサーノス・ペレスブランドを起ち上げる1992年まで26年間ラミレス工房で非常に精力的な製作(1400本のギターを出荷したと言われています)を行っています。
テサーノス・ペレスはこのようにラミレス最盛期を支えた職人として腕を磨ききった二人による、互いの技術と個性が円満に融合した理想的な共同作業との評価が高まり、1990年代以降のマドリッド派の主要ブランドとして人気を博すことになります。マリアーノの重厚さ、ペレスの柔和で類まれなバランス感覚とが自然に調和し、さらにスペイン的な音楽的表現力の豊かさも備えた二人のギターは現在もマーケットでは人気のアイテムとなっています。ブランドを起ち上げてから2000年代後半に二人がそれぞれ独立するまで、月に3本のペースで順調に良作を出荷し続けます。その後それぞれが自身の名を冠したラベルで製作を継続していましたが、マリアーノは腕の故障を機に2010年代に入ったころには製作を引退、テオドロ・ペレスは現在も良質なギターをコンスタントに出荷しており、着実にマドリッド派の重鎮としての地歩を固めています。
[楽器情報]
テサーノス・ペレス 1998年製 Maestro モデル No.221 Used です。ラミレス系マドリッド派特有の音響設計ですが、ラミレスのように高音を前景化させて歌を強調させることも、パウリーノ・ベルナベのようにすべての音が等しく強烈に主張してくるようなこともなく、低音から高音までの自然なバランスを構築しながらその中で濃密にロマンティックな音色を聴かせるテサーノス・ペレスならではの至芸が味わえる一本です。そしてこの表情の豊かさはここぞというときには情感をたっぷりと振り切るところまで表出しながら、あくまでも上品さを失わないところも素晴らしい。さらに特筆すべきは彼らのギターの非常な演奏性と機能性の高さで、マドリッド派らしいたっぷりとした響きですがタッチに対する反応が鋭敏で発音ではぱっと音像が表れ、終止においてはさっと止まる、その音楽的な身振りが心地良く、奏者はタッチのままに音が動いてゆく感覚で演奏できます。このような発音の連なりは旋律に自然なドライブ感を生み、音楽がどんどん躍動してゆく感覚もまたこのブランドならではでしょう。
表面板力木配置は、サウンドホール上下(ネック側とブリッジ側)に1本ずつのハーモニックバーを設置、このうち下側のバーの低音側には長さ4センチ高さ3mmほどの開口部が設けられています。力木は扇状形の配置ではなく、表面板の木目と同じ方向に互いに平行にして設置された4本(5本)と、下側ハーモニックバーの中央から高音側横板に向かって斜めに下がってゆくように設置された1本、そしてボトム部分に逆ハの字型に配置された2本のクロージングバーという配置になっています。そして駒板の位置にはほぼ同じ面積をカバーするように薄い補強板が貼ってあるという全体の設計。まず平行に配置された4本(5本)の力木は表面板センターに配された一本を境に高音側に1本、低音側に2本が設置されており、センターと高音側の合わせて2本は駒板位置のプレートの上を通過してボトム部に至っていますが、センターの低音側隣の1本はプレートの上下で分かれています(※そのためセパレートされたそれぞれを1本とすると、平行力木は5本となります)。また斜めに配置された1本は本来ならトレブルバーとして「バー」の1本とされるところですが、本作のこれはバーの強固な造りではなく平行力木と同じサイズと形状をしていることから力木の一つとしています。レゾナンスはF#~Gの間に設定されています。
表面板、横裏板ともに経年数を考慮するとキズや打痕等は細かく浅いものがほとんどで、表面板指板脇などはやや多く見られるもののいずれも外観を著しく損なうものではありませんが、割れの修理歴はおもに表面板に集中して数か所あります。指板脇のほぼ横板に近い部分の高音側低音側に1か所ずつ、下部低音側ふくらみ部分に1ヵ所、駒板低音側縁近くに1ヵ所(駒板の上下にまたがって割れが生じています)、同じく駒板高音側脇の部分にくびれ部からボトムにかけての長い範囲で1ヵ所、ボトムのエンドブロック両脇部分に1ヵ所ずつ、それぞれ内部からパッチ補強処理(一部接着のみの処理)がなされています。裏板は下部低音側に1ヵ所の割れ補修あと(接着のみ)があります。ネックは良好な状態を維持しており、フレットもほんのわずかに摩耗がみられる程度で演奏性には全く問題のないレベルです。ネック形状はかなり薄めのDシェイプでコンパクトなグリップ感、弦高値は3.1/4.0mm(1弦/6弦 12フレット)でサドル余剰は1.0~2.0mmとなっています。おそらく出荷時の標準設定のままかと思われますが、ネックの差し込み角や上述のネック形状等の効果からか左手のストレスをあまり感じさせない設定になっており、実際の弦高値よりも体感的には押弦しやすく感じます。糸巻はカナダの高級ブランドRodgersのものにかなり以前に交換されており、現在も機能的に問題はありませんがプレートの端がわずかに木部からはみ出ています。