ネック:マホガニー指 板:エボニー塗 装:セラック糸 巻:ライシェル弦 高:1弦 3.0mm/6弦 4.0mm[製作家情報]ゲオルグ・ボーリン Georg Bolin (1912~1993) スウェーデン、ゴットランド島に生まれ同地に工房を構えたスウェーデンを代表するギター、そしてピアノ製作家(※名前はイェオリ・ボリーヌと表記する場合もあります)。農家に生まれますが、農業には馴染めず、兄弟とアンサンブルを結成するなど(ゲオルグ自身はバンジョーを担当)幼いころから音楽に傾倒しています。また木工の才能に恵まれており、ストックホルムで指物大工の専門学校に入学し本格的に学んだのち、同校で教師の職に就き最後は校長にまでなって長年にわたり教鞭を執っています。ギター製作のきっかけは生徒の一人がギターを製作したいと相談してきたことで、ならば自身でもと思い独学で最初の一本を製作。しかし当時のスウェーデンでは良質な楽器を製作するための情報を得られるほどにはギター製作の文化が発展しておらず、彼は自身でその後かなりの試行錯誤を重ねたようです。そうした折、伝説的ギタリストで当時すでに世界中に名声を轟かせていたアンドレス・セゴビアのストックホルム公演があり、ボーリンはこの大巨匠に会い、おそらくは彼の情熱に心動かされたのかセゴビアは自分のギターを1日だけ貸して研究するように励まします(※セゴビアが彼の製作したギターを使用したかどうかは不明)。その後教師の職を辞し、1950年代以降は製作に没頭しますが、木工に関するトータルな知識と経験の深さゆえかギターだけでなく弦楽器やピアノまでも製作(彼のピアノはアレクシス・ワイセンベルク や ウラジミール・アシュケナージらの名手が使用していたとのこと)。そして1960年代には同国のギタリスト、ペール・ウロフ・ヨンソンの発案でのちに彼の代表モデルとなる11弦ギターの開発に着手。これはルネッサンス期のリュート音楽をクラシックギターへ自然に移行し演奏できることをコンセプトにしたもので、ボーリンはここでアルトギターを11弦に多弦化することから発想し、しかし単なるリュートのアダプテーションに堕すことのなく彼自身の芸術的設計と造作技術、木材にと楽器に関する知識、そして何よりも音に対する深い感性(ヨンソンの助力も多分にあったとはいえ)によって世界でも唯一無二のギターを作り上げます。ルネッサンス・バロックという古き時代の響きにあまりにもフィットしながらも、それまで誰も聴いたことのない完全に「新しい」音響は、当初メディアからは「愚行」との批判にさらされましたが、ほかならぬヨンソン自身の演奏によって少しずつその価値を認められるようになり、そして名手イョラン・セルシェルの登場がその価値を決定づけることになります。ボーリンは11弦のほかにも多弦ギターとしては8弦ギター、そしてもちろん通常の6弦クラシックギターの製作も行っており、また同じ11弦でも弦長やボディサイズ、カッタウェイの有無など多様な仕様に柔軟に対応してしまうところはいかにも一級の指物師として身を立てた彼らしい。そして彼のどのギターにも通底するのは、木を音に帰属させるというよりは音のほうを木に帰属させるようなところがあり、これを北欧的と言っても良いのですが、まさに木そのものが発しているような音響の独特の魅力にあると言えます。それゆえにある種の不完全性を常に内包しているのですが、それが欠陥ではなく、音楽と親和性を保っているところにも彼の楽器の他にはない特性があります。[楽器情報]ゲオルグ・ボーリン製作の11弦ギター 1982年Used‘Nordica’の入荷です。ボーリンの代表モデルであり、今も多くのブランドで11弦が製作される際に採用されている設計と仕様のスタンダードとされている、クラシックギターの名品の一つ。いかにも彼らしい、楽器としての美しいデザインと樹の実在性が際立った外観がまずは素晴らしい。クラシックギターの芯の強い音にルネッサンス的な澄んだ滋味をまとわせたような独特な音色で、純粋音楽的な新しさと古雅とがぎりぎりのところでせめぎあったような、なんとも不思議な魅力をもった楽器です。多弦による音の立体感が心地よく、ポリフォニックな音楽での各声部の遠近感ある線の構成が可能になり、やはりセルシェルの名演が示す通りバッハやバロック音楽の演奏における音響は6弦ギターにはない説得力が生まれます。表面板の力木構造は、サウンドホール上側(ネック側に)2本、下側(ブリッジ側)に1本のハーモニックバー、さらにボトム近くにも1本のバーが設置されています。下側ハーモニックバーとボトム部のバーとの間に計7本の扇状力木が設置されているのですが、スタンダードな設計では扇の中心点がネックの付け根付近に設定されるところ、ここでは高音側のウェスト部に中心点があるようにしてそこから低音側下部のふくらみ部分に向かって扇が開いているような形で設置されています(ただし一番低音側の一本だけは扇の中心点から異なる角度でしかも短く作られており、6本の扇状力木を補完するような形で設置されています)。これらのバーや力木そして表面板と横板の接合部に補強のために設置するライニングはやはり通常の6弦ギターと比較すると強固に作られており、多弦ギターの張力に対する耐久性も考慮されています。ちなみにセルシェルが使用している1974年製の同じ11弦ギターは扇状力木を左右完全に反転させた配置にしており、ボーリンの左右非対称の構造に関する考えを考察するうえで興味深い事例だと思います。本器のレゾナンスはG#~Aの間に設定されています。表面板の駒板下1弦部分に弦とびあとがありますが、その他は細かな摩擦あとのみで弾きキズなども目立ったものはなく良好な状態です。多弦ギターの経年変化としてよく見られる弦張力による表面板の歪みもほとんどありません。表面板下部低音側に一部、内側に布が貼られている箇所があり、補強のためと思われますが現状で同箇所に割れは確認されていません。塗装には一部ムラやひび割れなどは見られますが外観を損ねるものではありません。ネックは真っ直ぐを維持しており、フレットは1~5フレットでわずかに摩耗見られますが演奏性には影響のないレベルです。糸巻はドイツの高級ブランド ライシェルのボーリンオリジナルのカスタム仕様でつまみに中南米産ローズウッド材が装着され、全体の雰囲気との統一感がここでも意識されている徹底ぶり。 11弦ギターの調弦は 11弦(B♭) 10弦(C) 9弦(D) 8弦(E♭) 7弦(F) 6弦(G) 5弦(C) 4弦(F) 3弦(B♭) 2弦(D) 1弦(G)。弦は通常の6弦用のものを使用、7弦以下の5本はすべて6弦を張ります。ボーリンはすべてのギターに個別に名前をつけており、印象的なラベルに直筆で書かれています。
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ネック:マホガニー
指 板:エボニー
塗 装:セラック
糸 巻:ライシェル
弦 高:1弦 3.0mm/6弦 4.0mm
[製作家情報]
ゲオルグ・ボーリン Georg Bolin (1912~1993) スウェーデン、ゴットランド島に生まれ同地に工房を構えたスウェーデンを代表するギター、そしてピアノ製作家(※名前はイェオリ・ボリーヌと表記する場合もあります)。農家に生まれますが、農業には馴染めず、兄弟とアンサンブルを結成するなど(ゲオルグ自身はバンジョーを担当)幼いころから音楽に傾倒しています。また木工の才能に恵まれており、ストックホルムで指物大工の専門学校に入学し本格的に学んだのち、同校で教師の職に就き最後は校長にまでなって長年にわたり教鞭を執っています。ギター製作のきっかけは生徒の一人がギターを製作したいと相談してきたことで、ならば自身でもと思い独学で最初の一本を製作。しかし当時のスウェーデンでは良質な楽器を製作するための情報を得られるほどにはギター製作の文化が発展しておらず、彼は自身でその後かなりの試行錯誤を重ねたようです。そうした折、伝説的ギタリストで当時すでに世界中に名声を轟かせていたアンドレス・セゴビアのストックホルム公演があり、ボーリンはこの大巨匠に会い、おそらくは彼の情熱に心動かされたのかセゴビアは自分のギターを1日だけ貸して研究するように励まします(※セゴビアが彼の製作したギターを使用したかどうかは不明)。その後教師の職を辞し、1950年代以降は製作に没頭しますが、木工に関するトータルな知識と経験の深さゆえかギターだけでなく弦楽器やピアノまでも製作(彼のピアノはアレクシス・ワイセンベルク や ウラジミール・アシュケナージらの名手が使用していたとのこと)。そして1960年代には同国のギタリスト、ペール・ウロフ・ヨンソンの発案でのちに彼の代表モデルとなる11弦ギターの開発に着手。これはルネッサンス期のリュート音楽をクラシックギターへ自然に移行し演奏できることをコンセプトにしたもので、ボーリンはここでアルトギターを11弦に多弦化することから発想し、しかし単なるリュートのアダプテーションに堕すことのなく彼自身の芸術的設計と造作技術、木材にと楽器に関する知識、そして何よりも音に対する深い感性(ヨンソンの助力も多分にあったとはいえ)によって世界でも唯一無二のギターを作り上げます。ルネッサンス・バロックという古き時代の響きにあまりにもフィットしながらも、それまで誰も聴いたことのない完全に「新しい」音響は、当初メディアからは「愚行」との批判にさらされましたが、ほかならぬヨンソン自身の演奏によって少しずつその価値を認められるようになり、そして名手イョラン・セルシェルの登場がその価値を決定づけることになります。
ボーリンは11弦のほかにも多弦ギターとしては8弦ギター、そしてもちろん通常の6弦クラシックギターの製作も行っており、また同じ11弦でも弦長やボディサイズ、カッタウェイの有無など多様な仕様に柔軟に対応してしまうところはいかにも一級の指物師として身を立てた彼らしい。そして彼のどのギターにも通底するのは、木を音に帰属させるというよりは音のほうを木に帰属させるようなところがあり、これを北欧的と言っても良いのですが、まさに木そのものが発しているような音響の独特の魅力にあると言えます。それゆえにある種の不完全性を常に内包しているのですが、それが欠陥ではなく、音楽と親和性を保っているところにも彼の楽器の他にはない特性があります。
[楽器情報]
ゲオルグ・ボーリン製作の11弦ギター 1982年Used‘Nordica’の入荷です。ボーリンの代表モデルであり、今も多くのブランドで11弦が製作される際に採用されている設計と仕様のスタンダードとされている、クラシックギターの名品の一つ。
いかにも彼らしい、楽器としての美しいデザインと樹の実在性が際立った外観がまずは素晴らしい。クラシックギターの芯の強い音にルネッサンス的な澄んだ滋味をまとわせたような独特な音色で、純粋音楽的な新しさと古雅とがぎりぎりのところでせめぎあったような、なんとも不思議な魅力をもった楽器です。多弦による音の立体感が心地よく、ポリフォニックな音楽での各声部の遠近感ある線の構成が可能になり、やはりセルシェルの名演が示す通りバッハやバロック音楽の演奏における音響は6弦ギターにはない説得力が生まれます。
表面板の力木構造は、サウンドホール上側(ネック側に)2本、下側(ブリッジ側)に1本のハーモニックバー、さらにボトム近くにも1本のバーが設置されています。下側ハーモニックバーとボトム部のバーとの間に計7本の扇状力木が設置されているのですが、スタンダードな設計では扇の中心点がネックの付け根付近に設定されるところ、ここでは高音側のウェスト部に中心点があるようにしてそこから低音側下部のふくらみ部分に向かって扇が開いているような形で設置されています(ただし一番低音側の一本だけは扇の中心点から異なる角度でしかも短く作られており、6本の扇状力木を補完するような形で設置されています)。これらのバーや力木そして表面板と横板の接合部に補強のために設置するライニングはやはり通常の6弦ギターと比較すると強固に作られており、多弦ギターの張力に対する耐久性も考慮されています。ちなみにセルシェルが使用している1974年製の同じ11弦ギターは扇状力木を左右完全に反転させた配置にしており、ボーリンの左右非対称の構造に関する考えを考察するうえで興味深い事例だと思います。本器のレゾナンスはG#~Aの間に設定されています。
表面板の駒板下1弦部分に弦とびあとがありますが、その他は細かな摩擦あとのみで弾きキズなども目立ったものはなく良好な状態です。多弦ギターの経年変化としてよく見られる弦張力による表面板の歪みもほとんどありません。表面板下部低音側に一部、内側に布が貼られている箇所があり、補強のためと思われますが現状で同箇所に割れは確認されていません。塗装には一部ムラやひび割れなどは見られますが外観を損ねるものではありません。ネックは真っ直ぐを維持しており、フレットは1~5フレットでわずかに摩耗見られますが演奏性には影響のないレベルです。糸巻はドイツの高級ブランド ライシェルのボーリンオリジナルのカスタム仕様でつまみに中南米産ローズウッド材が装着され、全体の雰囲気との統一感がここでも意識されている徹底ぶり。
11弦ギターの調弦は 11弦(B♭) 10弦(C) 9弦(D) 8弦(E♭) 7弦(F) 6弦(G) 5弦(C) 4弦(F) 3弦(B♭) 2弦(D) 1弦(G)。弦は通常の6弦用のものを使用、7弦以下の5本はすべて6弦を張ります。
ボーリンはすべてのギターに個別に名前をつけており、印象的なラベルに直筆で書かれています。